第6話 ページ7
カラカラと音を鳴らしながらチェスの駒が床に転がる様子を見た後、また視線を目の前の男へ戻した。
今からされるであろう事にほんの少し身震いする。
彼の左腕が私の腰へまわり、グッと引き寄せられた。
近くなったルク様の口元からは鋭い牙がのぞく。
「少し、心臓の音が強くなった。」
「そんな事まで聞こえるんですか。」
「怖いんだ。」
「……。」
否定はしなかった。
だって事実だし。
もしかしたらこのまま血を吸われて死ぬかもしれないし。
「殺すまでは吸わないから安心しろよ。」
「保証できますか？」
「できないねー。」
相変わらず楽しそうに笑う彼は、私の首元へと顔を近づける。
空いた右腕で私の後頭部を支え、少し上を向かせた。
天井が目に入り、これが最期の光景だったらどうしよう、なんて少し考える。
「A、お前はどんな味がするんだろうな。」
近くなったその声を聞いた瞬間、冷たい牙が私の皮膚へズクリと埋められた。
「っ…！」
ビクッと体が反応し、反射的に彼の胸元の服を握った。
耐えられない痛みではないが、妙な感じがする。
うまく言葉では言い表せないが、体の中のものがどんどん抜けていくのがわかった。
耳元ではゴク…と嚥下の音がする。
「…ぅ、あ…っ。」
そんなに時間は経っていないと思う。
けれど、この瞬間は驚くくらい長く感じた。
体の芯が熱く、息切れがする。
貧血だ。
「…はっ…も、やめ…。」
上手く声が出ない。
彼の体を押そうとするが、全身に力が入らない。
この吸血鬼は私の血に夢中なようだった。
「…っはぁ、やば…。」
「ぅ…。は…っ、は…。」
気絶するギリギリのところで牙が抜かれ、彼は満足そうに口元についた血を舐めとった。
私は何かにつかまっていないと今にも倒れてしまいそうで、僅かな力で彼の両腕を握る。
その様子を眺めた彼は、赤い目を細めて笑った。
「ひ弱だな。このくらいでバテるなんて。」
「誰の…せいだと…。」
「お前の血、気に入った。」
それは何より。
返事をしようにも、もうそんな気力もない。
頭がくらくらする。
私の浅い呼吸を聞きながら、彼は面倒臭そうにため息をついた。
「しょうがないなー。」
「っ！」
そう呟き、彼は私を横抱きにする。
ここに連れてきた時みたいに荷物のような扱いではなかった。
少し困惑したが、それよりも貧血症状が辛くて何の躊躇いもなしに彼の胸へ頭を預けた。
「さて、じゃあ部屋へ行くぞー。」
愉快そうな声の主の胸からは、心臓の音は響いていなかった。
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ユーリ(プロフ) - きのこさん» コメントありがとうございます！これからゆっくりですが更新出来たらなって思ってます！読み返していただいてありがとうございました(^^) (3月21日 22時) (
レス) id: 8c2671b61f (このIDを非表示/違反報告)
きのこ - 久々に読み返そうとしたら更新されてた！このお話とても好きなので嬉しいですありがとうございます！ (3月12日 11時) (レス) id: 7efd4a51d7 (このIDを非表示/違反報告)
ユーリ(プロフ) - しゃけおに専門家さん» コメントありがとうございます！更新がんばりますのでよろしくお願いします！ (2022年4月24日 12時) (レス) id: 1b15c65b45 (このIDを非表示/違反報告)
しゃけおに専門家 - 好きです！ルク様の作品は少ないので更新が楽しみです！ (2022年4月23日 22時) (レス) id: d97bc805fa (このIDを非表示/違反報告)
ユーリ(プロフ) - なっちゃんさん» コメントありがとうございます！これからもよろしくお願いしますね！！ (2022年3月28日 0時) (レス) id: 53b3cc7ad6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ユーリ | 作成日時：2022年2月26日 3時
