第十場 ページ18
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明かりの点いていない、ヘチャンの部屋。
安らかな香りが広がり、ぱたんと彼が戸を閉める音に ほっと胸を撫で下ろす私がいる。
そしてまた、一つ 一つと
止めどなく落ちてくる涙は 一体なんなんだ。
どうかしてしまった私を、
ヘチャンはどんな顔で 見ていただろうか
「…なぜ、泣いているんですか」
「……分からないわ」
「…」
流石のヘチャンも、この私の様には動揺しているようだった。
私は着物の袖で涙を拭い、顔を上げる。
随分と垢が抜けて、大人になったと思っていたけれど
不意の瞬間にはまだ 幼い表情がこちらを伺ってくる。
暮れかけの夕陽だけが彼を照らす。
ヘチャンが、私に向かって腕を伸ばしてくるのを感じて
私は さっと身を翻し
それとなく窓の向こうを眺めた。
「…ヌナ」
「そのような呼び方は控えなさい」
「…嫌だよ」
「ヘチャン、」
「違う」
「は…？」
「…ドンヒョガ、って呼んでよ」
思わず彼に振り向く。
ヘチャンは、駄々をこねる子供のように
ゆっくりと諭してくる 大人のように
曖昧で、ゆらめいて
…美しい
私の琴線に触れるような、感情的な目の色で
また 私にその腕を伸ばす。
傷だらけの腫れ物のような私に、綺麗な腕を 伸ばしてくる
その状況を察したときに
…いけない
あたしなんかに触れたら
せっかく素晴らしく育った貴方が
きれいな、ヘチャンが…
そんな思いが一気に脳内を蹂躙して
私はヘチャンの腕を叩いて はらった。
ヘチャンは驚いて、目を見開く。
一瞬震えたその腕は
私に怯えているようだった。
そしてまた、胸の奥を鋭い痛みが走る。
必死に保っていた心の均衡が、崩れかける。
また、また
…また 私は
大切な人を傷つけてしまうのだろうか。
その瞬間には、恐怖が身体を駆け巡り
ガタガタと骨の髄を揺らすような
発作的な何かが 体の底から湧き起こりそうで
そんな時だった
ひとの、温もりを
…包み込まれる、感覚を
体中に得て
ほっとしている そんな私
動転していた気が、治ったとき
私はヘチャンの腕の中に居た。
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rurueru - このお話は本当に書籍化して欲しいぐらいお気に入りです。これからも長く続いてほしいですがこの願いははたまた、、、 (2021年2月24日 22時) (
レス) id: cf29b96430 (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - もう5年くらいいろんな方の作品を読んでいますがTOP3に入るくらい好きな作品です。終わりが近づいていてとても惜しいです、、 (2021年2月20日 23時) (レス) id: dce001e485 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月
| 作成日時：2021年2月19日 22時
