第六場 ページ1
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TY side
行かないでください
消えないでください
俺を、
捨てないでください
どうか
俺を必要としてください
「っ……！」
…うなされるような夢から目覚める。
いつもの天井。障子から溢れる日光。
空っぽの腕の中を、昼下がりの生温い風が通り抜けた。
いつもより広い布団の上で寝返りを打ち、無意識にあのひとの面影を探しては また瞳を閉じるけれど
すぐに重たい体を起こし、前髪をかき上げて
はあ、と こぼした溜め息が誰にも聞かれることなく 独りぼっちのまま消えていく。
近頃はどうも体調が悪い
と、言うのも
…俺は何をしてしまったんだろうか、
後悔よりも疑問が先に浮かぶ。
最近、Aさんが 俺を避けるようになった。
その理由がなんでかなんて 分かってたら
こんなに苦しい思いをしていない。
何も言ってくれない。
俺の目を見て、本当のことを話してくれない。
それがあのひとの、昔からの
悪い癖なんだ。
水差しの冷たい水を一口、
寝巻きを脱いで 着物に着替えて
それでもまだ心に絡みついた、どす黒い色をした何かは 綺麗さっぱり消えてくれない。
目覚めたあとは、台所係の人にお膳を出してもらって
Aさんと向かい合って 食事して
Aさんと一緒に着替えて
Aさんと一緒に化粧をして
Aさんと一緒に髪を整えて…
…なんで、どうして
俺のそばに 居てくれないんだろう
俺をそばに 置いてくれないんだろう
このまま一人で居ても、頭がどうにかなりそうだったから ユウタにでも会いに行こうといつもより早く部屋を出た。
階段を下れば、まだ人通りの少ない廊下。
それでも、
…春の風に乗って
あのひとの香りが 鼻腔に漂ってくるような気がするのは
俺の気のせいか。
青藍の空を見上げる。
桜も散りかけて、
薄桃色が天空を舞う。
「…あなたは本当に素直ですことね」
…やばいな、俺
ついに幻聴まで───
……なんて
廊下の角に、あのひとの着物の裾。
俺は思わず目を見開く。
夢うつつだった頭が冴えていく。
風が、吹き荒れて
前髪が揺れるけれど
俺はその光景から一瞬たりとも目が離せない。
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rurueru - このお話は本当に書籍化して欲しいぐらいお気に入りです。これからも長く続いてほしいですがこの願いははたまた、、、 (2021年2月24日 22時) (
レス) id: cf29b96430 (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - もう5年くらいいろんな方の作品を読んでいますがTOP3に入るくらい好きな作品です。終わりが近づいていてとても惜しいです、、 (2021年2月20日 23時) (レス) id: dce001e485 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月
| 作成日時：2021年2月19日 22時
