第七場 ページ39
.
テヨンの花魁道中が一週間後に迫った。
一般の見物客が多く来訪するのみならず、
振袖新造や器楽隊、その他 従業員も多数参加する行事だ。通常営業に重ねた準備はまさに忙しくなってきている。
夕陽に染まり、活気に溢れる楼内を歩く。
作業が順調に進んでいることを確認していると、「楼主様！」と私を呼ぶ下女の声がした。
「チェ様がお越しになっております」
「あら… すぐに伺うとお申しして」
「はい！」
…また来たのか。
肩が重い。
溜め息を一つ吐いたら、私はすぐに顔を上げ
和やかな営業用の笑顔を掲げる。
門に向かって歩けば、彼の姿が見えた。
「これはこれはAさん。今日も一段と美人さんだ」
「ご機嫌よう、チェさん。本日は如何なさいましたか」
恰幅の良い体に卑しい笑顔。
夕陽に照らされた額が脂で光っている。
チェさんは父の代からお世話になっている
その眼は確かなもので、現にテンやジェヒョン、ドヨンやマークを買い付けてきたのは彼である。
だけど、如何せん その素行が少し問題だ。
本人はさりげなくそうしているつもりなのだろうが、あからさまに体の距離を寄せてくるので 私はさりげなく後方に身を引いた。
「日本からね、また新たに少年が売られてくる予定なんですよ。ご参考までにお聞かせしようと思ってね」
「まあ、そうでしたの。でしたら、然るべき時に伺いますわ」
「そうとは言わずに、ねぇ？細かい日程を決めましょうよ。あなたの為ならいつだって時間を割きますよ」
私の手を握り、にこにこと笑ってる。
…これも付き合いのうちではあるのだけれど。
あくまでも“楼主”としての笑顔を彼に投げかける。
「大変恐れ多いのですが、花魁道中が一週間後に迫っているのです。準備に追われておりまして、わたくしの暇が…」
「それなら花魁道中の次の日にすればいいじゃないの、ねえ？一流の料理人を呼ぶから、少し遠いところの旅館でゆっくり酒でも飲みながら、どうだい」
「お生憎、その日は数名の男娼の着物を仕立てる日になっておりまして、わたくしも同行しますの」
チェさんが私の手を握る力が、強くなる。
ずいっと体を寄せてくるものだから、表情を保つことに必死だ。…口角の筋肉が震える。
私と父ほど年齢が離れているのに、この人は何故 私の心を掴めると思っているのだろう。
虫唾が走る。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 859人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「NCT」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：如月
| 作成日時：2021年1月11日 10時
