遊郭物語 -新都編- 伍 (ページ38)

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ヘチャンみたいに強い気持ちでAさんを想う人を、もし Aさんも愛する時が来たのなら

俺は、あのひとを必要としなくなるのだろうか。

その時、俺はあのひとなしで生きていこうとするのだろうか。

…分からない。

全然、分からない。

俺の手のひらを見つめる。

この手は、一体何をしたがってるんだろう。

俺の胸に手を当てる。

…この心臓は、何を思って命を刻んでるんだろう。

その瞬間、数日前の出来事が蘇る。

俺もAさんも忙しくて、
全く触れられない日が何週間も続いて

それなのに

…Aさんは、楽しそうにわらって
ジェヒョンや、テンや、ドヨンやウィンウィンのそばを歩いていて

その腕に触れたりなんかしていた

前から少しずつはわかってた

Aさんは俺なしじゃ生きていけないけど

あのひとのそばには他にも魅力的な男が何人も居て

きっとAさんを笑わせられるし幸せにできるだろうし

Aさんも、本当は
“テヨンが居なくちゃ生きていけない” なんて

俺を繋ぎ止めておくためだけの、戯れ言で

本当は、そんな風にあのひとのこと必死に求めてるのは

俺だけなんじゃ、ないかって

…思ってたんだ。

だから、その後ろ姿を
あの暗闇の中に見つけた瞬間

俺にもよく分からない
俺の中に潜む猛獣のような、何かが

…止まらないまま、Aさんに噛みついた。

“俺を失いたくないなら”

“今ここで俺に貴女を抱かせてください”

…あんなこと、普段は絶対に言わない。

Aさんも、驚き怯えるような顔をしていた。

一昨日もそうだよ

ドヨンと二人で着物を見物していた姿。

…最初はそんなつもりじゃなかったのに
ドヨンのことも、嫌いじゃないのに

それでもあの二人の姿を見た時には本当は

腹の底から何かが暴れ出して
Aさんを喰らい尽くしてしまいそうだった。

“俺は、貴女の男だ”

…あのひとに言い聞かせていたつもりで

多分本当は俺自身に言い聞かせてたんだろうし
俺の願望だったんだろう。それが。

……待てよ、そうか。

…そういうこと、なのか？

俺の中に巣食う、気味の悪い猛獣。

Aさんを想うだけで、暴走する厄介なあいつ。

…俺の中の、もう一人の俺。

それってもしかして、

俺の意志っていうやつ？

そう気付いた時には、手の震えは更に大きくなっていた。

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