遊郭物語 -新都編- 伍 (ページ33)

今日:4 hit、昨日:2 hit、合計:175,054 hit

＿ページ33

.
HC side

質問攻めにして、こっちの勢いに会話の流れを持っていこうとしたのに。
いつもの俺なら、難無く出来ることなのに。

目の前の楼主様は、笑ってるくせに全く笑っていない冷たい瞳で俺に微笑みかけてくる。

「貴方、何か様子がおかしいけれど。どうかした？」

…どうかした、なんて

あんた全部分かってるんだろ。

そんな思いが口から溢れそうになって、慌てて抑える。

こんな調子だから、ほんと…
楼主様にはいつまで経っても、手が届かない。
それどころか、どんどん遠くなっていく。

そんな思いに急かされると、
体って思いとは違う方向へと、勝手に動くものだ。

俺は、気付けば

「…気になったんです。もし、お二人の間に特別な関係があったら… なんて」

…なんて

限りなく、本音に近いような言葉を口走っていた。

ヌナは、
…ううん、楼主様は

俺に振り向いた時、笑っていた。

優しい微笑みだ、と錯覚した瞬間心は素直に喜ぶ。
これこそが、俺の否定しようのない本心。

だけど、すぐにそんな俺の淡い感動も打ち砕かれるんだ。

…これで何回目だろう。

楼主様は、ほんの一瞬

俺の煩悩を、余計に企てた関心を突き刺すような

氷で出来た剣のような

そんな目で俺を見る。

「貴方には関係の無いことですわ」

…俺を、除け者にする。

二人の、

…テヨンイヒョンとの、世界から

俺を遠ざけ、突き放し、確固たる溝を作る。

すたすたと去っていく、細い背中。

俺は、見つめることしか出来なかった。

…関係ない、なんて
それは確かにその通りだけど

それでも…

俺にとっては、関係無いことなんかじゃないんだ。

俺は、来た道を引き返して大階段を上っていく。

三階には、五部屋。
そのうち空き部屋は二つ。
真ん中の部屋は楼主様とお客様の応接室。

手前の部屋が、テンヒョンのもの。

そして、奥の方だ。

テヨンイヒョンの部屋の前で、立ち止まる。

…こんなこと、していいのか。
俺、変なこと嗅ぎ回ってるって噂されないかな。
ただでさえ楼主様には、さっきあんなことを言われてしまった。

…でも、それでも。

若さゆえのなんとか、って
この先笑い話にでもなればいい。

それくらい、俺は

……Aヌナを…

「…テヨンイヒョン、いますか？」

襖の前、正座をして返事を待った。

.