遊郭物語 -新都編- 伍 (ページ26)

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TY side

俺がこの心臓に刻み込んでること

それは、

Aさんのためにこの命があるってこと。

あの夏の日、

もしもAさんが俺の前を通り過ぎたら
もしもAさんが俺を見つけなければ

俺はきっと、もっと早いうちに
ここからはずっと遠いあの土地で

人知れず、野垂れ死んでいただろう。言葉通りに。

Aさんは、俺を必要としてくれた。

Aさんの意志で、
俺は新たな生を受けた。

だから俺はAさんの望むこと、なんでもする。
なんでもしないと、いけない。

そこに理由は無い。

Aさんが他の誰かを愛そうと、
俺を一番に想ってくれなくても

…そう、今日のドヨンみたく
俺じゃない誰かと戯れていたとしても

それでも俺は、Aさんの望みを叶える。

今、俺の目の前で彼女は

泣きそうな顔をしながら

…俺の頬に触れて

「あんたは、娼夫なんかじゃない。…あたしの、男よ。……そうでしょ…？ねえ……、」

そんなことを、俺にすがるように言う。

手が震えていく。

…その瞳が、俺から背いて
声色は涙に揺れる。

俺は思わず、俺から離れていくその肩を

…乱暴だと怒られそうなほどに、強く抱き寄せて

俺から逃げようとする唇を、

必死で捕まえて

「テ、っ… ……ん…っ…」

「っ…」

…これでもまだ、分からないのか。

俺を誰よりも求めているくせに、
俺を絶対に信じようとしないAさんに

俺の身体ごと、存在ごと、焼き付けたくて

また、俺の中で獰猛な何かが

Aさんへ牙を剥く。

その華奢な身体に被さり、抵抗する肩を押さえて

唇、その手、その首、その胸、その腰
…至る所に激しい接吻を落とし続けながら、

数十分前には、事を終えたのに

また燃えるような熱情を秘める俺の本能を

…貴女に、わからせたくて

貴女に、受け止めて欲しくて…

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