第五場 ページ24
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テヨンの身体
こんなにも 筋肉に覆われていたっけ
…数日前の、この時間にだって
同じように その肌を感じていたはずなのに
逞しい腕に 背後から抱き締められている 今、
そんなことを 思い浮かべた。
「…じゃあ、結局 来月あたりにするのね」
「詳しい日程は… 彼女と改めてご挨拶に伺ってから、決めたいと思っています」
低くて、ぼそぼそ話す癖がある その声。
テヨンの身体にもたれかかると、
彼は 私との距離を一寸も開けたく無いと言うように
私の肩に顎を乗せ、さらにきつく 私の身体を抱き締めた。
薄暗い部屋の中で、
きっと彼も気付いているはずだ
…ドヨンの残り香が漂う 布団の上で
さっき
テヨンは彼の幻影を振り切るかのように
私を激しく抱いた。
暮れていく太陽を目に、
テヨンの髪を撫でて 真っ白な頬へ口づけると
彼は私の顎を掴み、深く その唇を溺れさせる。
束の間の悪戯に始めた、
息が絶え絶えになるような接吻のあとも
なんにも、無かったように
…この部屋の外での、いつもの あたしたちのように
テヨンは私を 寂しそうに抱き締めて
ぼそぼそと、また 話し始める。
「…あの着物を、着ようと思ってます」
「どの、着物」
「俺の誕生日に貴女がくれた、白い椿の着物」
「…これまで、着たこと 無かったかしら？」
「無いです」
確かに、彼の言う通り
あの着物は季節柄にも合った一枚だろう
ただ、気に入らないのは
それだけ、今の今まで 大切に取っておいた一着を
…どうして、この機会に 着るのだろう。
ふと、彼の横顔を 伺ってみれば
日々を重ねるごとに、現実を離れていくような
西洋の美術品の如き大きな瞳が
私を見つめ、
目を 逸らす。
…気に入らない。
本当に。
「ねえ、あなたには言っていなかったけれど」
「…なんですか？」
「そのお客様。朴家の御令嬢様、ね。あなたを身請けすること、希望なさってるの」
「…！」
「ふふっ、これで何度目かしらね。あなたへの身請け話」
あの、朗らかな 健康的な女性。
もう何年も前から、テヨンを贔屓に 此処へ通い詰められているお客様だ。
非常によくして頂いて、
毎夜 大きなお金を落として頂いて
この上ない太客様。
とても緊張しながら、
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作者名：如月
| 作成日時：2021年1月11日 10時
