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DY side
「…て」
「…え…？あっ、ごめん、聞いてなかった…」
「ふふっ、でしょうね。…ずっとここ、見てたんでしょ」
「…！」
するりと、
風の隙間を通り抜ける 透明な蛇のように
気付けば僕の首筋に手を添えて
僕の目の前で、微笑んでいる。
「…ヌナ、っ…」
「…誰にやられたと思う？これ」
「っ……、誰って… それは…」
「…ばかね、真剣に考えなくてもいいのに」
「……、」
「でも、そういうところ、好きよ」
静けさだけが満ち満ちた部屋の中に
僕の心臓の音だけ、響いてるんじゃないかと
そんな不安を引き立てるくらいに、
鼓動が うるさい。
身体を揺らすような心音に、ただ気を取られていた。
光が届く速度は 音よりも速い。
だから雷は、光った数秒後に 鈍い音が地面に響き渡るのだと 何処かで誰かから聞いた。
そんな一縷の光が、
僕の身体を 撃つんだ。
ヌナの唇。
…呆気に取られるうちに、そっと、離れていく。
「…ドヨン」
「……なに…？」
「ただ、抱きしめてくれるだけでいいの」
「…」
「だからあたしと、寝て」
そんな風に、簡単そうに …貴女は言うけれど。
僕は息を深く吐き、
彼女の細い身体を抱き寄せて 布団に一緒になって 倒れ込む。
…こんなの、誰が付けたのか 知らないけれど
ヌナの寝間着の襟元を引っ張り、
薔薇の花弁のように重なる その跡のもとへと唇を滑らせて
「…抱きしめてくれるだけでいい、って 言ったじゃない…」
そんな風に、呆れたような声を漏らす ヌナの唇を
…もう一度、今度は僕から 塞いで 黙らせた。
例えば足首を折ったとして、完治しても
歩き方に 多少の癖が付いてしまうだろう？
それでも、生きる上で 歩行は不可欠だから
その癖を自分のものにして、その後の人生を歩まなければならない
貴女が僕にくれた快感は
僕の身体に 心に
物理ではない痛みを、怪我をもたらしたんだ
だけどその古傷は
錆びついた感覚は
もう 僕の身体の、一部に なっている。
…貴女の肌を、求めてしまう 瞬間的な発作。
それと共に、僕は きっと
これからの人生も 歩んでいくんだろう
…彼女のなかに、僕をさらけ出しながら
そんな 夢の中の出来事、みたいな
掴めもしない 支離滅裂なことを
感じていた。
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作者名：如月
| 作成日時：2021年1月11日 10時
