第三場 ページ16
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なだらかな山の輪郭が、夜の終わりに浮かび上がる。
昇ってきた太陽の光が、
まるで魔を除けるように 私の目に射した。
眼下を見渡せば、朝日と共に“普通”の生活へ、家路を急ぐ女性たちの後ろ姿。
門の近くには、…あの後ろ姿はテイルやジェヒョンやヘチャン、マークたちだろう。
“本日も御来店有難うございました。お気を付けて、いってらっしゃいませ。”
そんな風に お見送りをしながら、深く膝を折る男娼がずらりと並んでいる。
この景色を壮観、と思えるほどに 艶やかに成長した彼らの背中。
今日も、何事もなく 終わった。
これからやっと迎える就寝を前に、
英吉利の紅茶を淹れるため 湯を沸かす。
これも
…最近、疲れが溜まっているのか。
不意に目眩がして、倒れ込んだ。
湯が沸騰する音。
ちくたくと、時計の針が 動く音。
見上げた天井、
薄暗い世界。
襖の向こうに、足音。
衣の擦れる音。
そこに、正座する音。
「楼主様、ドヨンです」
「…お入りなさい」
「はい、失礼致します」
襖の開く音。
ぴたりと、閉じる音。
…長椅子に寝たまま、視線だけを傾ければ
何かを盆の上に乗せて部屋に入ってくる、ドヨンの姿があった。
私の様子を目に、心配そうな顔色を浮かべる。
「…やっぱり。さっき見た時に、体調が悪そうだと思って」
「ふふっ… 申し訳ないわ、無用な心配をかけて」
「何言ってるんですか。…ヌナも人間でしょ。しっかり休まなくちゃ、だめだよ」
「少し寝たら治るわよ、きっと」
素早くこちらへ歩いてくると、
近くの卓上に その盆を置く。
何を言わずとも、匙で茶葉をポットに入れ、沸いた湯を火から下ろし、てきぱきと準備をしてくれる。
その横顔は、すっかり青年の顔つきだ。
「疲れている時には糖分が大事なんだって。ヌナの好きなお菓子を持ってきたから、気分が良くなったら食べてね」
「…ありがとう。優しいのね」
「いやいや…」
謙遜して微笑む姿に、私は目を細める。
重い体を起こすと、アッサムの香りがふわりと立ち上がった。
無言で紅茶を淹れ、私の手前に差し出すドヨン。
一挙一動を厳しく見る癖がついた私だけど、
もうドヨン程の段階ともなれば 心配は不要だろう。
私は「ありがとう」と囁いて、
その黒い髪をひと撫でした。
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作者名：如月
| 作成日時：2021年1月11日 10時
