遊郭物語 -新都編- 伍 (ページ18)

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私はドヨンに微笑みかけ、彼の手を握り返す。

ドヨンは私から目を離すことなく、繋がる手の指を絡めた。

「…大丈夫よ、そんなことないわ」

「本当に？…それなら、いいんだけど」

…私を迫真の瞳で見つめて

“俺を失いたくないのなら”

なんて、言うその姿は

その瞳は

私に歯向かい、そして私を脅迫するようだった。

きっと、彼の中でも無自覚なんだろうが

それでも、確かに
彼の中に自我は芽生えていて

私は、そんな彼の気迫と欲に押されるまま…

…あんなことが、起こるなんて。

従順なあの子は
実はもういなくなっているかもしれない。

そう考えると、身震いを超えた何か

悪寒とも違う、何か

得体の知れない、底の知れない
私を脅かす何かが、愉しげに此方の様子を伺っているように思えた。

ドヨンの手を、少し強く握れば
彼は私を勘繰るような表情で私を見つめて

そんな彼の様子に、私は目を閉じて微笑んで

彼の手を離した。

「…そろそろ、行っていいわよ。心遣い、どうもありがとう」

「…こんな貴女を見て、一人でおいていけるわけが無いでしょう」

「え…？」

私の中に巣食う、何か不穏なものを察したドヨンは

その細い身体でいとも容易く私を抱き抱えた。

見上げればすぐそこにある、切れ長の瞳。
すらりとした鼻筋に、雪のように白い肌。
少し痩せた頬。

彼を見つめる私に、ドヨンは穏やかな笑みを浮かべる。

「部屋に戻らないの？」

「ヌナが寝付くまで、そばにいるよ」

「…それじゃあ余計に緊張して、寝れないわ。帰りなさい」

「僕の我が儘だよ。たまには聞いてよ」

…もう。

下級娼夫たちをまとめ上げる立場にまで成長したドヨンなのに、ここぞとばかりに子供のような笑顔をする。

私が優しく、その頬をつねったら

ドヨンは今日、はじめて

嬉しそうに笑った。

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