第九場 ページ17
.
四月一日 晴天
春の訪れに相応しい日和
例年通り、桜が満開になった。
数日前までの肌寒さは鳴りを潜め、
訪れた春を祝福するように 優しい風が吹いている。
開演前にも関わらず、会場は人の海だ。
若い女性がその殆どを占め、華やかな宴を今か 今かと待ち構えている。
大通の路肩に目をやれば、まるで縁日のような装いで 露店が連なっている。
香ばしい香りに誘われ、足を向けると
ひときわ、女性たちが集まる露店の中に
向日葵のような笑顔を見つけた。
YT「A！」
「あははっ、悠太くん本当にお店してる(笑)」
YT「毎年大好評やからね(笑) たこ焼き、食べる？」
「うん、頂いてみようかな」
YT「めっちゃ美味いから！ほんまに！」
暖かな陽の光に照らされると、さらにその笑顔が光り輝くようだった。
「熱いから気を付けて」と、優しい声掛けを忘れずに 悠太くんが舟皿を手渡してくれる。
息を吹きかけ、かりかりのたこ焼きを齧ると
…うん、確かにとても熱い。
だけど、甘塩っぱくて、美味しい。
YT「どう？」
「…うん、美味しい！こんなの初めて食べた！」
YT「やろ！？いっぱい食べて！」
悠太くんの笑顔。
…どうしてか、今日は特に 胸に焼きつくみたい。
すると、悠太くんも 私の顔をじっと見つめて
なんだか嬉しそうに微笑んだ。
YT「…Aの笑顔、見れてよかった」
「…、」
YT「今日は楽しもうな！」
にっこり、微笑む。
だけど、きっと その笑顔の裏では
彼は何もかも 判っているはずで。
切なさと愛しさが見え隠れする
…どんな冬でも、嵐でも 強く咲き誇る向日葵。
優しくて、暖かくて、男らしくて
私の心を支えてくれた、大切な 向日葵。
私が悠太くんの笑顔を見ると、きっと感傷に浸るということも 彼は分かっていて
わざと、楽しそうに 笑った。
そんな気遣いにすら、目頭が熱くなっていると
背後から明るい声が聴こえてくる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 818人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まの。(プロフ) - 文ひとつひとつが美しくて儚くて世界観に完全に飲み込まれてしまい涙が止まりませんでした。素敵な作品をありがとうございます。第二章たのしみにしてます。 (2020年12月23日 17時) (
レス) id: f85dbd625a (このIDを非表示/違反報告)
みんはは(プロフ) - 初めまして。占ツクのおすすめからやってまいりました。ドキドキと儚さといろいろな感情が湧いてきました。いいお話をありがとうございます。第二幕も楽しみにしています(^^) (2020年12月22日 15時) (レス) id: bf5897c69c (このIDを非表示/違反報告)
ねね(プロフ) - とても儚く、一ページずつ進むにつれてドキドキが増していきました。まるで自分が本当にこの世界にいるような感覚になり、何度でも読みたいと思った作品でした。第二幕も楽しみにしています！ (2020年12月22日 13時) (レス) id: cf1331ef12 (このIDを非表示/違反報告)
めろん。 - 彼らの生きる世界が美しいながらもとても儚くて、読み進めていくうちに世界観にひたすら没頭し、胸が締め付けられる思いでした。とても素敵なお話でした。第二編も楽しみにしております。 (2020年12月22日 1時) (レス) id: 2ef4a3e2fe (このIDを非表示/違反報告)
ぴっぴ。(プロフ) - はじめまして。なんという唯一無二のお話でしょうか。本当にのめり込みすぎて感情移入しすぎて儚すぎて涙が止まりません。第二章とっても楽しみです。ありがとうございました。 (2020年12月22日 0時) (レス) id: 6af44f4d13 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：如月
| 作成日時：2020年12月19日 22時
