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階段を上がり、角を曲がると
背筋をぴんと伸ばして立つ女性の姿が見える。
夜空を思わせる黒い髪は、きっちりと結ってある。
同じような漆黒の着物に、
目が覚めるような 赤い口紅。
顎元の黒子から漂う色気。
凛々しい瞳の、美しさ。
…この方も、とても近付き難い雰囲気の持ち主だ。
まるでテヨンさんのように。
そんな彼女に怖気付く私に、ジェミンは微笑みかけて
“大丈夫だよ” と 囁いた。
彼女は私たちに気付くと、
私を真っ直ぐと見据えて 深々と礼をした。
「…ようこそ、御出なさいました。お迎えに上がれず申し訳ありません。あまり人目につくとご迷惑になると思い、彼を遣わせました。ご許しを」
「あっ… いえいえ、私は何も、」
低く、落ち着いた声。
慎ましく、それでも 滲み出る迫力。
ゆるやかな物腰は 一流のそれだ。
完璧な造形で微笑む姿が、かえって恐ろしい。
楼主は私の脇に立つジェミンに目を向ける。
「下がってよろしい」
「はい、失礼致します」
ジェミンが腰を折り、横目で私をちらっと見上げると
そのまま踵を返し、すたすたと去っていった。
沈黙が続かぬよう、楼主は和やかな笑顔を浮かべて口を開く。
「立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
「…はい」
案内された小部屋に上がり、楼主の正面に正座する。
「いつもご贔屓にして下さり、有難う御座います。男娼たちから貴方様が大変よくしてくださっていると聞き申し上げておりますわ。…こちらにお呼びしたのは、他でもありませんの」
「…はい」
「貴方様に“水揚げ”をお願いさせて頂きたいのです」
水揚げ。
…これも、ジャニから聞いたことがある。
初めて床に入る娼夫の、最初の相手をすること。
大抵は 楼主が信頼する相手へ直々に 水揚げの依頼をするのだそう。
そうか、さっきジェミンが言っていたことの意味が 分かった。
…あの、切ない表情の意味も。
「…私で、よいのでしょうか」
「是非とも、今回は貴方様のお力をお借りしたいのです」
どこか、私を試しているような瞳。
…そうか、つまり
示された道は三つ。
一つは、遊郭の収入を上げるために、その まだ見ぬ“相手”を私が一流の男娼に仕上げ、楼主からの信頼を勝ち取る。
二つは、この話を断り、楼主からの信頼を失う。
三つ目は…
…私がその相手に肩入れし、
ジェミンを諦めることを 彼女は狙っているんだ。
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きむロン - なにこれえッち！！！やだ恥ずかしい！！！（） (2021年3月19日 10時) (
レス) id: 687bfe2f8c (このIDを非表示/違反報告)
ひかるちゃん(プロフ) - 遊郭と韓国アイドルの世界ってなんだか似てるなって思いました (2021年1月25日 2時) (レス) id: a4b03772ec (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 既視感があると思ったら3年か4年前に読んでい方の作品にまた出会えて本当に感激です泣ありがとうございます！ (2021年1月3日 3時) (レス) id: 7a2ecf4d8f (このIDを非表示/違反報告)
獺 - 焦がれるほどお待ちしておりました。再び貴方の文学に触れられると思うと眦が熱くなるような気すらします。素晴らしいあなたと、素晴らしいあなたの文学が本当に大好きです。 (2020年12月20日 11時) (レス) id: 5140f050ee (このIDを非表示/違反報告)
理沙 - 文字から伝わってくる色気が凄いです…。風景が簡単に浮かんできます。設定もそれぞれに合ってて、（特にテンちゃんのキャラ最高です笑）全員がどんな風に出てくるのか今からとても楽しみです。 (2020年12月18日 21時) (レス) id: ba6de82bf1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月
| 作成日時：2020年12月17日 17時
