波 ページ23
「いただきますっ」
「どうぞ」
彼のために作った料理たちが、彼の口内で、ようやく役目を終える
「やっぱうめー! こんな料理が食えんなんて、おれは
「ふふ……大げさだね。 でも、そういってくれて嬉しい」
「ほんとだよ。 おれはAに噓はつかない」
「仮に噓ついたって、わかるよ。 キヨちゃん、すぐ顔に出るから」
「噓っ?」
「ほら、そういうところも」
「これはリアクションだから違うだろ?!」
こけた頬をふくらませて怒ったふりをする彼を見つめながら、わたしも箸をすすめる
「ちゃんとおいしいって思える。 Aの……愛情が入ってるからかな?」
こてんと首を傾げて訊いかけるキヨちゃん
そうだよと頷くと、やっぱりなあとか、おれにはわかるんだよなあとか、なにやら満足げな独り言が響いた
「キヨちゃんにはバレバレだったかな」
「バレバレだよお」
やけに間延びした、子どものようなトーンで受け答えする彼が、嬉しそうに笑う
やっぱり、笑ってる顔が素敵だな
「おかわりあるー?」
「あるよ。 いっぱい食べてね」
「うんっ」
彼の口の周りについた汚れを拭きとってから、皿をさげる「キヨちゃん、どれぐらいー?」「大盛り!」「はーい」
そうしてごはんをよそっていると、突然うしろから抱きしめられた。 戸惑いと恥じらいに、茶碗を落としてしまいそうになる「き、キヨちゃん?」
声をかけても、返事はない。 わたしはまた、れいの発作がぶり返したのだろうと、茶碗を置いて、正面から彼を抱きしめ返した
「どうしたの?」
「……なんで、おれ、ひとりにすんの? もう、ずっとひとりで耐えてたのに、……離れたくないよ。 もうお腹すかない。 一緒にいよ? もっと強く抱きしめて……」
「おかわりいらないの?」
「いらない」
彼は視界をぼかすように眼を細めてから、Aだけいてくれたらいい、と泣いた
「ごめんね。 キヨ、また困らせて。 悪いコでごめんね。 でも許してね……」
「なにも悪くないから、謝らないで」
「ほんと? Aちゃん、嫌いになってない?」
「なってないよ」
すると、彼はその場に膝をついて、また泣きじゃくった
「おれも……Aちゃんのこと、一生好きだからっ。 ずっと、ほんとにずっと……」
それから、わたしの腰に縋りつく。 肌に触れた涙の温度に、彼の生を感じた
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クッキングママ
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作者名:玲佳 | 作成日時:2020年4月4日 19時