時の流れ ページ22
*
彼と最後に別れた日から一週間が経った
いつ彼が来てもいいように、毎日彼の好きな料理を作っていたが、それは寂しいひとり女のごちそうにしかならなかった
洩れるため息
わたしはテーブルの向かいに彼の人形を置いて、手を合わせた「……いただきます」
そして箸を持った時、チャイムが鳴った
もしや、という期待を胸に抱きながら、玄関へ向かう。 もう一度鳴るチャイム。 ああ、間違いない
扉をあけると、そこにはやはり彼が立っていて、わたしの顔を見るや否や涙を流した「A……A……会いたかった……っ」
「おかえり。 わたしも会いたかったよ」
「死ぬかと思った……でも、生きてる。 A……」
「なあに? ……もう、また泣いて」
「だって、だって……」
以前よりもやつれた顔をしていることも、なぜかパジャマ姿で、裸足なことも、今はいい
とにかく、わたしは子どものように泣きじゃくる彼を招き入れて、その涙を拭った
「ほら、裸足で来るから、汚れてるじゃない。 シャワー貸してあげるから……」
「おれ、へんなニオイする?」
「そんなことないけど、……どうして?」
「ずっと、風呂入ってないから。 なんか、水も恐かったし……」
「恐い? じゃあ、拭くだけにしとこっか?」
「ん…………そォする」
ぐずぐずと鼻を鳴らす彼に待っているよう告げて、濡れタオルを持ってくる「拭いてあげるから、足あげて」「ありがとう」
かがむわたしの肩を掴んで、いわれたとおり片足ずつあげるキヨちゃん
タオルには土や血が付着していた。 感覚がないのか、彼は痛いとも、それに準ずる言葉も口にはしなかった
「はい、綺麗になったから、もうあがっていいよ」
「やったあ。 ありがとう!」
高いホテルに泊まった少年のように、走ってリビングへ駆けてゆく彼の背中を追う
「うまそう! おれも腹へったなァ……あ。 これ、おれの人形? すげー、そっくりじゃん」
対面に置いたキヨちゃん人形を、本人が手にとって眺める(……この間は見せなかったっけ?)
その充血しきった眼は痛々しく、またもわたしの胸を刺した
「おれもずっと持ってた。 人形同士も、感動の再会だな」
ポケットから、以前渡したわたしの人形を出して、チュ、と彼にキスをさせる
「……うん。 キヨちゃんの分も用意するから、座って待ってて」
「待つ待つ!」
そう涙袋を浮かせて笑った顔は、以前の彼そのものだった
ラッキービデオ
クッキングママ
105人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玲佳 | 作成日時:2020年4月4日 19時