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怪談-38話 ページ39

「もう何も思い出そうとしないで……」



両手で僕の腕にしがみつきながら彼は項垂れる。その姿はまるで小さな子供がどこにも行かないでと懇願しているようだった。


「……」




実を言うともう1つ思い出したことがあった。



僕は誰かを守るために人を殺した。斧で首を切り落とし、二度と笑みを浮かべることがないように。


初めの頃はこの記憶を見て恐怖した。なんで僕が……まさか、って。



でも何度も何度も幾度となくその光景を思い出しているうちに、やがて感情までも記憶として入ってきた。



彼奴らは死んで当然だ。だって僕の妹を殺そうとしたんだ。僕の家族を殺そうとしたんだ。当然の報いだって。



……そんな思考が怖くてたまらない。



どんなに酷いやつだろうが、悪人だろうが、命を奪うことは間違っている。何があろうと人の命を奪うことが許されることなんか無い。



僕は人に優しくできるような人になろうと思って生きてきた。誰の為でもない。僕がそうありたいと思ったから。



「……分かったよ。」


そっと彼の肩に手を置いて目を合わせる。安心するように微笑みかけながら。



「花子くんがそう言うなら……」


「A……っ、ごめん。」



どうして謝るの。君が傷つくぐらいなら、何も思い出せなくてもいい。


伝わらないとわかってるから心の底に鍵をかけた君への想い。何も期待なんかしてない。


ただ、君の為なら何だってできるよ。例え元の世界へ帰れなくとも、あの部屋に閉じ込められようとも。



「大丈夫だよ。」


大丈夫だから……そんな悲しい顔しないで。



--------------------



「ど、どうしたの……!?」



部屋に戻ってじっと夕焼けを眺めているときだった。扉が開いて部屋に入ってきた彼は、僕に歩み寄ったあと胸に顔を埋めた。



背中に腕が回され不覚にも胸がドキドキと鼓動が早くなる。



「……ぐすっ……」



彼は泣いていた。



そう気づいた時、背中にあった彼の手が僕のシャツをシワになるぐらいに強く握りしめる。



「……大丈夫。大丈夫だよ。」



僕が不安になると花子くんはいつもそう言って頭を撫でてくれた。そうすると不思議と体の震えが止まって安心できた。



だから、彼にも同じように言葉を紡いで頭を撫でる。



何があったのかは聞かない。僕も彼も、この部屋での暗黙のルールのように。



僕は彼の傷について。彼はこの部屋について。互いに疑問を感じていたとしても口に出すことは無かった。



それが僕らなりの優しさだと思っていた。

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イロハ(プロフ) - thirdさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けてとても嬉しいです^^*更新、頑張ります! (2021年2月10日 13時) (レス) id: b47f502e49 (このIDを非表示/違反報告)
third - ヤベー!メッッチャお上手ですね!最高すぎる…続きめっちゃ気になります…応援してます! (2021年2月9日 20時) (レス) id: ea6df43fbb (このIDを非表示/違反報告)
イロハ(プロフ) - コメントありがとうございます!これからも頑張ります(´˘`*) (2020年11月23日 17時) (レス) id: b47f502e49 (このIDを非表示/違反報告)
猫築かなめ - 面白いです!夢主くんの過去や普、花子くんとの関係が気になります!更新頑張ってください (2020年11月23日 11時) (レス) id: 8f5697df22 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イロハ | 作成日時:2020年11月19日 11時

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