怪談-27話 ページ28
「Aおにーちゃんは、月に行きたいって思ったことはある?」
窓の外を眺めながら彼は呟く。外は夕焼け。月はまだ見えない。
まぁ、これからも見えることなんて無いんだけどね。
「俺はあるよ。月ってでっかくて綺麗じゃん。だからスゲーいいとこな気がして……。」
そう話す彼の横顔は優しく微笑んでいたが、僕には泣いているように見えた。
「あっ!そうだ。俺、月の石持ってたんだよ。今はもう人にあげちゃったから無いんだけどさ。」
「そうなんだ。」
月の石……。多分なんてことは無い石なんだろうけど、彼は信じてるんだろうな。いや、信じたいのかもしれない。
「どうしてあげちゃったの?」
「……あの石を見てたら、自分もどこにでも行けるような気がしてた。でもね、もうどこにも行かないって決めたから。」
困ったように微笑むあまねくん。なんだ、彼も僕と同じ気持ちだったんだ。
『……それじゃ誰も救えない。閉じ込めて無かったことにしても何も変わらない。何も解決しない。』
分かってる。
君だって本当は気づいてる筈だ。
でも、だからこそ僕は
「もう少し早く会えてたら、Aおにーちゃんにあげてたかもしれないのになぁ。」
「ごめんね、僕もあまねくんに会いたかったんだけど、中々難しくて……」
あ、そうだ。
首にぶら下げていた鍵の着いたネックレス。それを外してそっと彼の手に握らせた。
「これ、あげる。」
「これって……」
「この部屋の鍵だよ。」
これがあればいつでもこの部屋に入ることができる。扉を見つけるのは難しいかもだけど、見つけたら使ってね。
「そ、それって……」
外出する時は開けっ放しだけど……ま!大丈夫かな!多分、誰にも見えないし……
僕の部屋が境界なら、主である僕の許可が無い限り他の怪異が好きにすることは出来ない。
なら、問題は無い……はず。
視線を前に戻すとぶわっとした効果音がぴったりなほど赤く染まった顔があった。
「な、なに……?」
「え、いや……なんか、合鍵って付き合ってるみたいだなーって……」
その言葉につられてこっちまで体に熱が溜まる。
「そ、そういう意味じゃないよ!これがあればいつでも会えるねってことで……」
「いつでも会える……」
何を言っても駄目だ。馬鹿みたいにあたふたしてしまう。
「ぷっ……くくく。」
「ふ、ふふ……」
2人して大声で笑い合う。それから僕達はこの部屋を秘密の憩いの場として過ごすようになった。
89人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イロハ(プロフ) - thirdさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けてとても嬉しいです^^*更新、頑張ります! (2021年2月10日 13時) (レス) id: b47f502e49 (このIDを非表示/違反報告)
third - ヤベー!メッッチャお上手ですね!最高すぎる…続きめっちゃ気になります…応援してます! (2021年2月9日 20時) (レス) id: ea6df43fbb (このIDを非表示/違反報告)
イロハ(プロフ) - コメントありがとうございます!これからも頑張ります(´˘`*) (2020年11月23日 17時) (レス) id: b47f502e49 (このIDを非表示/違反報告)
猫築かなめ - 面白いです!夢主くんの過去や普、花子くんとの関係が気になります!更新頑張ってください (2020年11月23日 11時) (レス) id: 8f5697df22 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:イロハ | 作成日時:2020年11月19日 11時