天使さんには敵わない

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タイムカードを切り、後ろの従業員専用の扉からひょこっと顔だけ覗かせる。


周りを見渡したが、彼らしき人は見えなかった。


ゆっくりと、コンビニの表まで歩きだす。



「やっぱり、からかってただけかぁ……」
「誰がですか？」
「ひぇっ」



反射的に、後ろへ後ずさる。



やば、変な声でちゃった。


バクバクと心臓が鳴るのは、驚いたからなのかそれとも耳元で囁かれたからなのか。
私には分からなかった。


それにしても、心臓に悪すぎる。



「あはは、やっぱり面白いですねぇ。佐倉さん」
「ありがとうございます……？」
「すっごいからかいがいがある」
「前言撤回！！」



必死に笑いを堪えているようだけど、全然堪えきれてない……。


複雑だっ！


そんな事を考えていると、彼はわざとらしく咳払いをする。



「佐倉さんって下の名前なんですか？」
「知らない人にそんな簡単に教えるわけないじゃないですか」
「なるほど、僕は警戒されているのかぁ。そんな、手出したりしませんよ」
「大きな声で言わないでくれます！？」
「はは、おもろ〜」



そう言い、彼はまたケラケラ笑う。
一方私は、顔が熱かった。


根負けして、私はぼそっと呟く。


「Aです……」
「Aさんね、僕は叶」


叶、さん。

綺麗な名前だなぁ。


そう思っている時、ふと叶さんの持っているビニール袋に目が行く。



「あ、そういえばそのいちごオレ、お友達のものですか？」
「そうですよ〜、僕の親友が好きなので」


「へー、遊ぶんですか？」
「まぁ、ゲームしたりって感じですね」
「え、叶さんゲームするんですか！？」



私が少し前のめりで聞いた瞬間、叶さんは小さく微笑む。



「え、なんで笑うんですか」
「いやぁ、Aさんもゲーム好きなのかなぁって」
「まぁ…好きですけど」
「じゃぁ、明後日発売のやつ買います？」
「もちろん、買いますよ！」



私は少しだけ頬を緩ませる。


同じゲームを知ってる人がいるとか嬉しいなぁ、なんて。


その後も色々な話をした。


気づいたらかれこれ1時間たってて。


叶さんは「友人が待ってるから、また。今度一緒にゲームしましょ」そう言い私に背を向けた。



いや待て。

私、さらっとゲームの約束たてちゃった？


まさか、はめられた！？




あれから、一緒に沢山ゲームして告白は叶くんの方から。

叶くんがあの有名なVTuberだって知るのはもう少し先の話だったけれど。




これが、私と叶くんの出会い。

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