昔の話 ページ16
「……は?」
もっと驚いたり、否定したりしてもよかっただろうに、私の口から出たのはたった一音だった。
育ての母親?妹?奪った?
動揺やら混乱やらで再び機能が低下する脳。
「本当に何も知らないのね、そんな無知なところも可愛いけれど。いいわ、教えてあげる」
やめて、聞きたくない。
本能はそう言っているのに、私は何故か何も言えなかった。
自らを私の実の母親だと名乗った女性……水無月宵はこう語った。
水無月宵は若い頃から遊郭で働いていた花魁だった。
客である男性とお互いに惹かれ合い、やがて結ばれ形だけの夫婦となった後、二人の間に私が産まれた。
特定の男性との子供を産んだとなれば、遊郭で遊女など続けられないため彼女は引退し、娘の私に自分の後を継がせようとした。
しかし、当時宵が働いていた店は余りにも過酷な環境で行き過ぎた躾もあり、彼女の妹である黎は猛反対。
私の育て方について姉妹間で喧嘩が勃発し、宵が黎に向かって投げ付けた簪が赤ん坊だった私の首に刺さり、私が泣き叫んだ瞬間、黎は私を抱えて花街を飛び出した。
「当時、黎は子宝に恵まれないまま旦那に先立たれて憔悴していたから、私に突っかかってきたのでしょうね。普段は穏やかな妹だったのに」
目に映る女性が、町の景色が、すべて朧気な夢のように見えた。
頭がくらくらする。何も考えられない。
「まあそんなこといいのよ、今はもう。やっと貴方を見つけられたんだから。長かったわ」
彼女の言うことを全て否定したいのに、できない。
何故なら。
「本当に美しく育ったわね、A。さすが私の娘だわ」
彼女の髪色が、目の色が、顔立ちが。
私と、私の母との血の繋がりを思わせるには十分なほどにそっくりだったから。
そして、簪が刺さったという私の首。
そう。私には昔から、後ろ側の首に小さな穴のような傷があったのだ。
原因がわからずなんだか不気味だったので、ずっと髪を下ろして隠してきた。この傷のことを知っているのは”私の母”だけのはずなのに。
厭らしく歯車が噛み合う。
嗚呼、事実なのか、彼女の言うことは全て。
「さて、長話はもういいわよね。貴方には私が決めた通り、私の後を継いでもらうわ。遊郭に行くわよ、A」
「ッ……!」
”母”に腕を強く引かれたとき、弾かれたように私は我に返った。
「待って、そんな話聞いてません!!」
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よっしー(プロフ) - 一気読みしましたー!ほんと、衝撃です(・・;)続きが気になるー!更新楽しみにしてます! (2022年12月29日 6時) (レス) id: 9a6c96b2f0 (このIDを非表示/違反報告)
あ - お願いだから更新してくれ、、ああああああ (2022年10月12日 1時) (レス) @page17 id: e139e91a91 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - Riku__1031さん» お待たせしてしまい申し訳ありません〜!本日更新いたしました!これからも読んでいただけたら嬉しいです! (2022年8月14日 23時) (レス) id: 543e532459 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - 亜夜音さん» コメントありがとうございます!衝撃を与えられて嬉しいです〜!これからも頑張ります😊 (2022年8月14日 23時) (レス) id: 543e532459 (このIDを非表示/違反報告)
Riku__1031(プロフ) - 更新待ってます〜(;_;) (2022年8月13日 10時) (レス) @page16 id: cd9f4160d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:如月 | 作成日時:2022年7月4日 19時