迷惑な我儘 ページ11
「…………あァ?」
一段階低くなったその声に、私はぎくりと肩を揺らす。
やはり、触れてはいけないものだったか。
それでも、この一瞬の勇気を無駄にする訳にはいかない。
「蝶屋敷で、貴方の弟の……玄弥くんという人に会いました。会って、話をしました」
顔がそっくりだったから、絶対に血縁者だと思って、と少しでも和やかな空気にするため、笑いながら彼に話す。
しかし、そんな私の試み虚しく……
「俺に弟はいねェ」
静かな、そして怒気を孕んだその声が、一瞬で空気を冷たくした。
こんなに静かに怒っている不死川さんを見るのは初めてで、私の背中に冷や汗が垂れる。
これ以上踏み込んではいけない、と心のどこかではわかっていつつも、彼のことを知りたいという私の欲は留まることを知らなかった。
「玄弥くんとは同い年だったから、弟がいるってことを教えてくれていたら、もっと早く仲良くなれていたかもしれないのに」
「弟なんていねェっつってんだろォ」
「すっごくいい人でしたよ?お兄さん想いで、素直で」
「おい黙れ」
「…不死川さんに似て、とても優しい人でした」
「黙れェ!!!」
先程の優しい表情など無かったかのように、不死川さんは鬼のような形相で怒鳴り、拳を机に叩きつけた。
食器が揺れ、驚いた私は息を呑む。
「どうでもいいことペラペラ喋んなァ、うぜェ」
その言葉は、紛れもなく私自身に向けられているものだった。心が痛み、目尻に涙が浮かぶが、ここで泣いて逃げるわけにはいかない。
「…ごめんなさい。無関係の私が、軽い気持ちで踏み入ってはいけない領域だってことは、わかってます」
「なら……」
でも!と彼の言葉を遮り、私は涙を堪えながら両の拳をぎゅっと握りしめ、こう言った。
「不死川さん、自分のこと何も話してくれないから……!少しでも貴方のことを知りたいって思うのは……迷惑、ですか……ッ」
肩が、声が、拳が震える。
私は我儘だ。彼のことを知りたいから、彼の嫌がる話をするなんて。
でも、もしかしたら不死川さんなら、こんな私を受け入れてくれるのではないか、などと思ってしまう。
彼は、優しいから。
「……迷惑だァ。だいたい、俺のことを知ったところで何も得はねェよ」
けれど、そんなに甘いものではなかった。
「っ…………」
きっぱりと放たれた、迷惑だという返答。
初めて、彼に拒絶された気がした。
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よっしー(プロフ) - 一気読みしましたー!ほんと、衝撃です(・・;)続きが気になるー!更新楽しみにしてます! (2022年12月29日 6時) (レス) id: 9a6c96b2f0 (このIDを非表示/違反報告)
あ - お願いだから更新してくれ、、ああああああ (2022年10月12日 1時) (レス) @page17 id: e139e91a91 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - Riku__1031さん» お待たせしてしまい申し訳ありません〜!本日更新いたしました!これからも読んでいただけたら嬉しいです! (2022年8月14日 23時) (レス) id: 543e532459 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - 亜夜音さん» コメントありがとうございます!衝撃を与えられて嬉しいです〜!これからも頑張ります😊 (2022年8月14日 23時) (レス) id: 543e532459 (このIDを非表示/違反報告)
Riku__1031(プロフ) - 更新待ってます〜(;_;) (2022年8月13日 10時) (レス) @page16 id: cd9f4160d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:如月 | 作成日時:2022年7月4日 19時