盗み聞き ページ20
その後はすぐに解散した
1秒でも早く自分の中に渦巻いている感情に名前をつけてしまいたかった
でもいくら考えても答えは出ない
風呂に入る時も夕飯を食べる時も考えたが合うものは見つからない
ずっと気持ち悪くて醜い感情が胸の中で絡まっている
気持ち悪くて眠れなかった
暗い部屋の中ベッドの上でぼーっと天井を見ていたのだが眠りにつくことはできなかった
気づいたら空が少し明るくなっていたので起きて朝食を食べることにした
でもそこで問題が起きた
寝ぼけた頭で包丁を握ったので間違えて人差し指の指先を切り落としてしまったのだ
プラスチックのまな板の上に鮮血が落ちる
咄嗟に包丁を手放し押さえたのだが血は止まらずにボタボタと滴り落ちる
非常に焦った俺は時間の確認すらせずに寝癖ボサボサの部屋着のままサンダルを足につっかけて高専の医務室に駆け出した
指先から地面に落ちる血なんて気にする余裕もなかった
高専の廊下にたどり着いた時、医務室に電気がついているのが見えた
不思議に思った
それに話し声も聞こえてくる
盗み聞きするつもりはなかったのだが周りが静かすぎて少し離れたここにも聞こえて来た
「悠仁が死んじゃったなんて本当に信じられない」
「悟、落ち着つくんだ。今嘆いたって何にもなりやしない」
微かに震えている五条先生とそれを慰める夏油先生の声
「2人とも落ち着け。クマまで作って。寝てないんだろ？」
「ははっ硝子にだけは言われなくないなぁ」
「いえてるよ」
力の抜けてる先生たちの声が響いた
五条先生に至ってはもう泣いている音が聞こえてくる
五条先生でも、しんどいんだな
この瞬間。俺の中にあった歓喜の感情は消し去られた
喜んで良いわけがない
好きな人があんな苦しそうな声を出すことになってしまった出来事を喜んで良いはずがない
あの人たちは優しすぎる
きっと他の生徒が死んでもあんなふうに悲しんでくれるんだろう
愛嬌があるパンダと棘。
自分を持っている真希と釘崎。
しっかりしてるけどまだ幼さが残る恵。
人との距離がわかって明るい虎杖。
そして、特に取り柄もない俺。
あれ。もし俺が死んでもみんな悲しんでくれるんだろうか
突然違う意味で死ぬのが怖くなった
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作者名：万年ぼっち | 作成日時：2023年12月25日 21時
