泥棒猫に負けた俺【男主】 (ページ1)

今日:17 hit、昨日:30 hit、合計:3,974 hit

泥棒猫ページ1

右耳に近づけたスマホからは楽しいのか面白いのかはわからないが明るい声が聞こえてくる

左耳からは静かに海が波打つ音が聞こえる

俺はどうやら失恋をしたようだ

ことの発端は数日前

2年生になって初めての長期任務を夏油先生から言い渡された

任務の内容自体はそんなに難しいものではなかったが如何にもこうにも場所が遠い。

俺の今回の任務先は沖縄だった

高専を出る時に見送ってくれた数少ない同級生と担任の夏油先生と1年生が任務でいないからと来てくれた五条先生

緊張していたが不安を与えないように「なんか土産買ってくるから欲しいもんあったら早めに教えろよー！」とか任務に関係ないことを元気よく言った。

この時、俺の記憶に残っているのは「うまいもん買ってこいよー」と言った真希でも「ナンパはするなよ」とちゃらけたことを言ったパンダでも「しゃけー」と言って笑顔で送り出してくれた棘でも俺の空元気を見破って「気をつけておいでよ」と言って俺の頭をぐしゃっと撫でた夏油先生でもなくて緑の風に吹かれて綺麗な白髪をふわふわと揺らし「いってらっしゃーいっ！」と素敵な笑顔で笑った五条先生だった。

惚れるってのは恐ろしいことだね
こんなにも自然とあの人しか視界に入ってこなくなってしまう

飛行機に持っても浜辺を歩いてもラーメンを食べていても、頭に浮かんでくるのはあの人

なにしてるのかな、とか一緒に食べにきたいなとかを一生ぐるぐるぐるぐる考えてしまう

自分でもわかってたけど俺って多分重いんだな

それを自覚したのは呪霊を祓い終わって海辺でパイナップルを食べていた時のこと

で、日が沈んできて海がオレンジに染まった時だったかな

俺のスマホがブルブルと振動し始めたのは

その電話はパンダからでなんの躊躇もなく出た

「もしもーし」

『Aー！ビッグニュースだ！悟と悠仁が付き合ったんだとよ！』

その言葉を聞いた瞬間、頭が鈍器で殴られたような錯覚を起こした

でもこっちの動揺を悟られないよう、必死にいつもの自分に戻った

「ま、マジ！？五条先生にもついに春がきたかー」

俺はその春を貴方に連れていきたかったよ

「とりあえずおめでとうって2人に言っといてー！暗くなってきたしそろそろホテル戻るわ！」

俺がおめでとうって言われるはずだった

『おう、気をつけてホテル行けよ』

「はーい」

ピッと通話を切ってしまうと同時に俺の中に張り詰めていた糸も切れてしまったようでその場にペタリと座り込んだ