あなたといきる (ページ5)

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弐ページ5

汗の不快さで目を開けた時の気分が良いわけはない。ただ、あの夢から開放された1点において俺は安堵の息をはいた。
｢主、大丈夫かい。随分と息を荒くしていたよ｣
｢なんでもないんだ｣
｢なんでもないのにそんな風になるなんて、主はイケナイ人だねぇ｣
布団は寝汗でぐっしょりと湿っている。嫌な湿気から逃れるために、俺は布団から這い出した。
障子の組子は黒々している。仄かに白く光る紙の部分は、朝の気配を届けた。
ぼんやりと家具の輪郭が浮かんだ部屋の隅に、にっかり青江はいた。壁に寄りかかった彼は、どうやら俺の魘される声でやって来てくれたらしかった。
｢すまないな｣
｢僕は君の近侍だからね、いいんだよ｣
ひらり、と青江が片手を振ったのが分かった。半身をまだ弱い朝の光に晒した青江は、白い布が目立って見えた。
｢青江｣
自分でも声が震えているのが分かった。辛うじて己に聞こえる声量で吐いた名前は、彼に届いたらしい。青江は布団の脇で脱力した、俺の元に歩みを進める。
｢どうしたんだい、主｣
ゆらりと青江の肩から下がる白い布に手を伸ばす。暁暗の中に、それだけが浮かんでいるようであった。
｢僕のそれが気になるのかい？それはね｣
｢死装束だろ｣
なぁんだ、知ってたんだ。残念だ。
お前に、何が残念なのか聞いておけばよかった。今思うと、俺は青江のことをまるで知らなかったのかもしれないとも思うのだ。
｢……刀解を｣
まだ、夢の中にいた。俺が現実だと認めなければ、俺は夢の中にいるはずなのだ。俺が夢だと信じるならば、そこは夢になる。
｢ねぇ、主。僕は｣
｢にっかり青江、刀解を｣
俺は、あの日のにっかり青江を刀解していない。戦場へ出る彼の背を見たはずなのだ。