ありがとう、君。

７３ 届かなかった。 ページ23

｢叶ちゃん！！聞こえる！？叶ちゃん！！｣

｢お願い！！目を開けて！！叶ちゃん！！｣


看護師さんの声が響く


けど、私には

音の無い世界に見えて



嘘、だよね？

…叶ちゃん、目を開けてよ……


『Aさん！！』


叶ちゃんの声を思い出す


そんな……

嘘って言ってよ


ねぇ？

何で目を開けないの？

お願いだから…開けてよ……


｢叶ちゃん！！｣



その時だった






微かに動いた口、手

そして








落ちた、叶ちゃんの手


｢いやぁぁぁああああっ！！！！！！｣



一瞬にして、世界の色が無くなった


私の大切な人は、

今目の前で消えて


少ない力で動いた口は



“ありがとう”



そう言ってて


｢A！！｣


翔が私を抱いてくれる

けど

涙は止まらなくて


｢叶ちゃん！！叶ちゃん！！｣


大切な人がいなくなった苦しみは

凄くつらくて

いつもの笑顔の叶ちゃんは






手を伸ばしても、届かなかった

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