名無しさん【NJ】 (ページ10)

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レジに〝ときめく雲図鑑〟の1冊だけを持ってきたジョングクさん

聞いてもないのに資料として必要だから人に頼まれた、ということを聞かされた

「ナムジュンさん、知ってますか？」

『はい…よく買いに来てくださいます』

「ですよね！ヒョンからもAさんの話よく聞きます！」

ニコニコと楽しそうにナムジュンさんのことを話す彼

私はといえばナムジュンさんがここに来なかったのは忙しかったからだと納得して、笑い返しながら相槌をうっていた

よく見ると綺麗な顔立ち

前髪で隠れてよく見えないけど、目がクリクリで兎みたいだった

「あっ！その本！読んでくださってるんですね！」

嬉しそうにジョングクさんが指さした先には名無しさんの本

ジョングクさんもこの本を読むのか、と仲間が出来たようでつい嬉しくて

〝読んでくださってる〟

なんてまるで供給側に立っているかのような物言いに違和感なんか感じなかった

『この本、いいですよね。好きなんです』

「嬉しいです、ナムジュニヒョンはおっちょこちょいだけどいつも一生懸命書いてるから」

『…………え？ナムジュンさん？』

「え、あれっ、えっ？知らなかったんですか？

僕てっきり知ってるものだと……」

すいません、聞かなかったことにしてください。だなんて

今更聞かなかったことになんて出来ない

じゃあなに、名無しさんはナムジュンさんで、ナムジュンさんは小説家ってこと……？

不思議なことに辻褄はあう

来る時間がバラバラなのも、買う本の系統が違うのもきっと

『ナムジュンさんが、名無しさん……』

酷い。あまりにも酷いじゃないか

私が悩みをうちあけた時も彼は小説家になりたかったと言った私をどんな風に見ていたんだろうか

小説家を夢見て、それになれた彼が

その夢を見ることさえ出来なかった私を

分かってる。

ナムジュンさんはそんな人じゃない

でもどうしても私とは住んでる世界が違いすぎた

絶対に僕が言ったって言わないでくださいね！

と念を押して帰っていくジョングクさんの後ろ姿を見つめながら

大きく深く、息を吐き出した

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