選 ページ28
荒い息と目に浮かぶ涙。北さんのそれが何を表しているのか、選択肢でしか分からなかった。
怒っているのか
悲しんでいるのか
苦しんでいるのか
それとも何なのか
私の目から大粒の涙がこぼれ落ち、子供のように泣くじゃくる頃には、私は考えるということを放棄していた。
もう、誰のことも考えたくなかった。
誰の味方にもなりたくなかった。否、なりなかったけど、なれなかった。
「分かっとる、頭では理解はしてるんや。二人は長い間愛しあっとって、俺だけが邪魔者なんだって」
信介さんはあのサラサラとした髪の毛をガッとつかんで、噛むように言った。
「それでも、それでも、俺は......、このチャンスを逃したくなかった。好きな女性がたとえ不可抗力でも俺のとこに来てくれたんや」
今更易々返すわけにもいかんのや、と。
選べる、私だけが選べる。
今なら選べる。
長い思い出に終止符を打ち、北Aになること
両親と名誉と、仕事と親孝行を捨てて宮Aになること
私が宮Aになることを選べば、きっと信介さんはお父さんに掛け持ってくれる。
これが最後のチャンス。
これが、あの家に。私が戻りたくて、傍にいたくて仕方がなかった彼のもとに帰る、最後のチャンスだった。
.
「血迷ったか?」
「そう、かも知れません」
帰ってきた。
まだまだ殺風景で、甘く暖かい香りがするこの家に。帰ってきてしまった、北さんの家に。
要するに私は信介さんを選んでしまったわけで、これが最善かなんてそんなの分からないし、ただ身体が信介さんの腕をつかんで引っ張っただけで。
私はまだ彼が好きだ。
自信げに笑う彼が
盛大にネタを滑らせる彼が
美味しいと私の料理をかきこむ彼が
どこまでもバレーにひたむきな彼が
私を愛してくれている彼が
私は大好きだ。
でも信介さんも好きだ。気付いてしまった、これは恋愛感情の好きだと。
それが、ただ一緒に生活して麻痺した恋愛感情だとしても、信介さんが好きだと気付いてしまった。
自分に厳しく、人に優しい所
掃除洗濯料理、どれも妥協しない所
私の事を第一に考えてくれる所
たまに甘えたさんな所
残酷だ、どうせなら来世で信介さんに会いたかった。
どうして帰ってきてしまったのか、今日本当に好きだったのは誰だったのか。
今は聞かないで欲しい。
196人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狼 - 三角関係ってやつですねぇ…ヤバイですねぇいいですねぇ←(さいてi (2020年3月20日 21時) (レス) id: 58dc9d80b9 (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - ありがとうございます!!自分の中でもいかに北さんが喜ぶハッピーエンドというのが難題でした!最初から読んでいただけてるなんて、本当に光栄です。よろしければ少ないですが、小話と次作も読んでいただけると嬉しいです!! (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - 紫乃さん» ありがとうございます、めちゃくちゃうれしいです。当方本当に語彙がないので、国語辞書を片手に執筆したかいがありました! (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
本郷ゆい(プロフ) - 瑞稀さん» コメントありがとうございます。どうしてもここまで北さんについて深く掘り下げると、肩を持ちたくなりますよね!!小話では北さんに救われるよう書くので、楽しんでいただけたらと思います。 (2020年3月7日 23時) (レス) id: 36ee06747a (このIDを非表示/違反報告)
猫太郎丸 - 完結おめでとうございます!!!初投稿されたときからずっと見てた作品で毎回ムズきゅんされました…!侑くんも北さんも報われてほしくてでも作者さんの完結方法はとてもスッキリして今とても爽やかです!(?)改めまして本当におめでとうございます! (2020年3月7日 22時) (レス) id: 3db7769967 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:本郷ゆい | 作者ホームページ:http://nanos.jp/honngoyui/
作成日時:2019年11月11日 22時