残された宝物【安室透/降谷零】

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お腹に回った手に力が入ったのがわかった。



すぐに相手を離そうとするが、手が止まってしまう。



嘘だ、嘘だ、と脳内が相手の存在を否定する。



「……ゼロくん、だよね…っ…」



「…！」



聞こえてきた声は、昔聞いた声よりも低くなっていて。



なんで生きてるんだ



今まで何してたんだ



伝えたい言葉が喉につっかえて、上手く話せない。



「ごめんっ…」



彼女の謝る声でやっと頭に血が流れたようで、そっと腕を解いた。



「…僕は、」



公安警察の降谷零であることを隠さないといけない。



だから安室の笑みを顔に貼り付けて、彼女…有村Aの目を見つめた。



「…知ってる。ゼロくんとヒロくんの所属している部署は何となく知ってる……から…」



Aの口から出てきた幼なじみの名前。



思わず胸ぐらを掴んでしまった。



「君がいない間にっ…もう僕の周りには誰もいなくなった…！」



「え…」



道行く人からの視線を感じたのですぐに手を離し、ゆっくりと息を吐く。



「…店へどうぞ。僕のことは安室透と呼んでください」



「…わかっ、た」



ちりとりとほうきを手に持ち、Aをポアロの中へ入れた。



中では蘭さんと園子さんがこちらをガン見してくるが、スルーをする。



こんなの安室のキャラでないのは分かっているが、それほどに動揺してしまっているのだと思う。



彼女がカウンターに座ったのを確認すると、ホットミルクを作って提供した。



「ゼ……安室、くん」



「はい？」



うるうると涙を瞳に溜めて僕を見てくるAは、警察学校の入学式の日に見た顔とそっくりだ。



女だから、と周りの男子生徒に馬鹿にされ、それに対して言い返して1人になった途端こんな風に涙を我慢していた。



それを見たヒロが声をかけて仲良くなった、と。



言葉を選ぶようにして開かれたAの口。



「わ、たし…あのね…5年前に、誘拐されたの」



「…誘拐？」



「渋谷女児誘拐事件、って覚えてる？」



「覚えてるも何も…」



それはお前が居なくなった事件だろ、なんて言葉は飲み込んだ。



きっとこれを言えば本当に彼女は泣き出してしまうだろうから。



「まだ犯人は捕まってないんだけどね」



「犯人も分からないのに誘拐された、ということですか？」



「そう。2年もの間、山の小屋で過ごしたんだ…」



「…！？」



2年間…山小屋で…？



キャラなんて忘れて、思わず僕は彼女の手を掴んだ。

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