STory 6 (ページ35)

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ー新しいお薬、試してみよっか。

樹くんの言葉が、頭の中で何度も再生される。

嫌いな注射だけど、これなら2週間に一回打てば、これまで通りの吸入だけでいいんだって。

学校にも行けるし、ステロイドみたいな重い副作用はないはずって。

田中「このお薬を使うってことは、今まで頑張ってきた治療でも喘息の症状が改善されなかったってことだから、良いことばっかりじゃないんだけどさ…。

でも、これで少しでも楽になればいいなって思ってる。」

ーだから、あとちょっと、一緒に頑張ろう。

私が好きな、安心できる樹くんの笑顔なのに。
うんって、がんばるって、言えなかったんだ…。

京本「よし。吸入終わり！熱もなし！今日の夜は俺がいるし、なんかあったら我慢せずにコールね？」

「うん。たいちゃん、おやすみなさーい。」

京本「はい。とりあえず、おやすみ。」

私にとっては早すぎる小児病棟の消灯時間。
勉強とスマホはほどほどに…！って言葉と共に病室を出るたいちゃんを見送って、さっそくスマホで検索をかけるのは新しいお薬について。

パンフレットには一通り説明が書いてあるけど、ネットの声は正直な意見が多いからさ。
副作用がキツイとか、注射が痛いとか、そもそも効かなかった、とか。

良いことも書いてあるけど、やっぱり目につくのは悪いことばかりで。心がざわざわと、音を立てる。

その中でも目についたのが、高すぎる！って言葉。
いろんな制度が使えますよってフォローもあるけど、それでも、気軽に使える薬じゃないって意見も多い。

またお金…。
奨学金で賄える学費と違って、どうしても樹くんたちのお世話になってしまう医療費が、未だに苦しい。

こんなこと言ったらまた怒られるんだろうけど、私が副作用を我慢すればこの薬を使わなくても良いんじゃないのかな…って思ってしまう。

自分の夢のために、受験のために、お金をかけてもらうのは自分勝手じゃない？
本当にいいの？

ぐるぐる考えてたら眠れなくて、気がついたら朝になっていた。

京本「A〜おはよう。…眠れなかった？顔色、悪いねぇ。お熱と、血圧も測らせてね。気分悪くなったら教えて。」

また変なこと考えてたんでしょ。

ぎゅーっと腕が締め付けられる感覚が嫌で顔を顰めていると、ぺちんとおでこを叩かれた。

「たいちゃーん…。新しいお薬やめて、ステロイド、また頑張ってもいい？今度はちゃんと、頑張るから。」

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