STory 6 (ページ31)

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田中side

ー樹先生、Aちゃん発作です。吸入してますが改善しません！

「ん、すぐ行く。ネブライザー準備してて？」

薄暗い病棟の廊下を、出来るだけ静かに走る。
今頃すやすや眠っている子どもたちと、毎日のように発作で叩き起こされるA。

贔屓なんてしてないつもりだけど、心のどこかでAの頑張りが報われないことへの苛立ちを感じていた。

夏目「Aちゃーん、私の目見て？うんうん、苦しけどお薬吸ったら楽になるからね。」

606号室の扉を開けると聞こえてくる夏目の声と、激しく咳き込む音。

「ごめん、遅くなった。A〜？お薬入れたら苦しいのなくなるからね？なっちゃんとゆっくり深呼吸してて？」

って、話しかけても目も合わないお嬢さんは、俺らに本音をぶつけたあの日からなんとなく気まずさを感じているらしい。

治療で使ってる薬の副作用が、がっつり精神にきてるのもあって斗真先生とも連携とってもらってる状況。

夏目の手を掴んで離さないAを見て、俺は黙って点滴から薬を追加する。

今は無理に関わらない方がいいって、お互いに分かってるから。Aが自分から頼れる人がいるのなら、それはそれで良いことだって思えるようになった俺は大人。

処置が終わる頃には体力も限界で、すーっと眠りについたA。

ステロイドの点滴治療のせいで丸くなった頬を優しく撫でる。
こんなに頑張ってんのにな…

「ごめんな。」

暗闇に溶けて消えた俺の言葉に、Aの閉じられた目から涙が流れた。

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こうやって咳が止まらなくなって目を覚ますことにも慣れてきたからか、今日は目を閉じても眠れなかった。

そんな時に聞こえた樹くんの声に、気を抜いたら涙が溢れそうだった。

自分でも酷いことしてるって分かってるけど、どうしても樹くんたちに素直になれない。

このまま治らないんじゃないかって、急に不安になることもあって涙が止まらない日もあれば、何もかも嫌になって自分でもびっくりする言葉をぶつけちゃう日もある。

斗真先生は、お薬のせいだから気にしないって言うけど、大好きで大切な人に酷いこと言いたくないもん。

ーごめんな…ごめん。

薬のせいでパンパンになった顔を優しく撫でてくれる樹くんの手が大好きなのに。

大好きな人を泣かせなきゃいけない自分が嫌い。

泣かないで？

謝らないで？

そう言ってぎゅーってしたいのに、まだその勇気は出ないままだった。

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