1話 ページ2
家で、大きな姿見を見つけたのはつい先日のことで、
私の部屋に設置したのは、ほんの数分前の事だ。
曇っていて、鏡の役割を果たさないその鏡を、私はなぜかひどく気に入っている。
鏡の前に立ち、鏡面にすー、と指を滑らせると、ひんやりとした感触が伝わってきて、何故かものすごく懐かしく感じた。
鏡の中から、私の名前を読んで、相棒が飛び出してきそう。なんて。
私に相棒なんていないのに。ふふ、と乾いた笑いを零し鏡から手を離した。
「さて、と。ご飯でも作りますか。今日はなんだか辛いものが食べたい。」
独り言を呟いて、ぐぐーっと伸びをする。
冷蔵庫の中にあるものを思い浮かべ、今日のメニューを決めた。
トントントン、という小気味の良い音で包丁が踊る。ぐつぐつと煮だっている鍋には、丁度よく茹で上がった麺が入っている。私は切ったばかりのネギを投入しようとした。
「…あ」
ネギ、入れないように気をつけなくちゃならないのに。……そんなことない。この家に住んでいる人は、私と母だけで2人ともネギを食べれるはずなのに。
やっぱり、何か変だ。最近。疲れてるのかも知れないな、と思い改めてネギを鍋に入れる。
その後に、付属の赤い粉を入れる。箸でかき混ぜると、瞬く間に鍋はいかにも辛そうなラーメンが出来上がった。
「あは、絶対これマジカメあげたがるなぁ。」
一応、写真を撮る。鍋のままのラーメンは、とても不格好でほんの少しだけ、残念に思った。"あの先輩"なら、きっと鍋のままでも上手に撮れたんだろうな。
マジカメって、なんだろう。
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せりゅう(プロフ) - 、さん» 教えてくださりありがとうございます。外したつもりが、外れてませんでした。本当にありがとうございます。 (2020年6月6日 14時) (レス) id: 6f98464972 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せりゅう | 作成日時:2020年6月6日 13時