Page10:ドストエフスキー(中編) ページ10
謎を考えるうちに、ある一つの仮説に辿り着いた。
『ドストさんは悪い人…?』
よく考えると私はドストさんのことを何も知らなかった。知っているのは名前だけである。もしや、彼は私を誘拐したのではないか。私は誘拐された恐怖から、記憶を無くしてしまった。多少強引な気はするが、これで全て筋が通るのだ。
『だとすると、早くこの部屋から逃げないと…!』
私は怖くなってきた。だからだろうか。少し記憶を思い出した。記憶には父と母と私がいて、皆幸せそうだ。
『会いたいな…』
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
翌日、私はいつも通りに起きた。ドストさんもいつも通り花瓶を整えている。
「おはようございます、Aさん」
『おはようございます今日は黒い薔薇ですね。ドストさんが選ぶ花はいつも綺麗です』
「良かったです。そろそろ僕は仕事に行きますね。部屋から出てはいけませんよ」
ドストさんはいつも通り出て行った。そして私は今日、初めて言いつけを破る。
「家の場所は思い出せないけど記憶を頼りに探してみよう」
私は希望を胸に部屋のドアを開けた。
それは間違いだった。外に出て数日後、記憶がだんだんと戻り、家までの道が思い出せた。その場所にあったのは、家とは到底呼べない、焦げた木材だけだった。
『…え』
刹那私の記憶が全て戻った。しかし、それは幸せな記憶などではなかった。私の目から涙が溢れる。
『もう…私の…家族は…いないんだった…』
私の家は裕福な家庭だった。その頃はみんな幸せだった。しかしその後、お父さんが何故か会社をクビになった。そこから食べるものにも困るようになって、そして…
『一家心中しようとして、家に火をつけたんだ…」
私はサイレンの音で目覚めた。あたりには火が回ってきていて、両親は全身が火に包まれていた。私は慌てて外に出た。火が家を包む。火が消火されて家はなくなり、私は孤独となった。それを受け入れたくなくて、私は、記憶を無くしたのだ。
「僕の言った通りだったでしょう?」
『……ドストさん』
いつのまにかドストさんが私の隣に来ていた。
「記憶を思い出してしまったのですね。Aさん、辛いでしょう。さあ、家に帰りましょうか」
『…はい』
あれから私は外に出ていない。出る気もない。孤独になりたくなくて、身近な人間であるドストさんに縋ってしまう。
嗚呼、どうしてこうなってしまったのだろうか。
Page11:ドストエフスキー(後編)→←Page9:ドストエフスキー(前編)
35人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
霞草(プロフ) - ありがとうございます!頑張ります (2月5日 18時) (レス) id: bf2bd1b5e3 (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺 - ヤンデレは良いね、やっぱり。くにきぃだ君がヤンデレ…。めっちゃ面白かった (12月9日 21時) (レス) @page9 id: e52a8096f8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいたろー!(プロフ) - 国木田くん推しててよかった (11月28日 23時) (レス) @page1 id: 09168e2c17 (このIDを非表示/違反報告)
snow?(プロフ) - めっさ好き。続き楽しみ。アイラブヤンデレ。アイラブ文豪。(語彙力とは) (11月24日 0時) (レス) id: 6393b502b9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:霞草 | 作成日時:2023年11月23日 23時