01 ページ2
──
まだ、三十に入った頃だっただろうか。
一人の、女のせいで自分は人生の起動を変えられたと言ってもいい。
その場ですぐ置き去りにするか、孤児院に入れれば、よかったものを。
なぜ、自分の側に置いて十数年も経って仕舞ったのかを昔の自分に問いただしたい。
自分の肩より幾分も低い、小柄過ぎる女を見つめると、視線を感じたのかすぐに気づきどうしたんですか。と目線も合わせず短調に返事を返した。
確かに、自分は、とらわれるな。内側からではなく、外側から世界を捉えてみろと機関員に教鞭を揮ったはずだが、これでは自分が────。
なんでもない。
特定の相手にしか伝わらない発声法で告げると女は、薄く笑ってようやくこちらを見上げた。
｢結城さんらしくないですね｣
化粧を施さなくても、構わない程の美しさ。聡明な知識と記憶力。見たものをすぐに複写できる能力。自分にはこれくらいのことができて当たり前と思う心持ち。
それらは、機関員となんら遜色もないだろう。
性別さえ、男であれば。
女は、すぐに殺してしまうからスパイには向かない。そう思っているが、この女を見ると、そうはいかないと思っている自分がいる。
でも、この女を駒として使い捨てるには勿体ない。
それだけが、この女に任務を与えない理由である。
｢いい金蔓を見つけた。家の貧乏所帯にはもってこいのな｣
｢……どうせ、佐久間さんの上司でしょ？｣
そう告げると最初から分かりきっていたらしく、口元を歪ませ、改築した鳩舎を軽やかに歩んで行く。
廊下の突き当たりを左に曲がると、機関員を見つけたのか、女の表情が軟らかくなり視界から消えた。
年頃の女でもあるし、たまには外出したいであろう。
今度、休暇を与えてやろう。と念頭に入れておき、杖を付きながら冷たい執務室へと、足を引きずった。
──
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 97人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
結花(プロフ) - そらさん» コメントありがとうございます！そういってくださるなんてとても嬉しいです！更新頑張りたいと思います！ (2016年5月11日 23時) (
レス) id: e4f52b721c (このIDを非表示/違反報告)
そら - お話とっても面白いです！更新頑張ってくださいね！ (2016年5月9日 22時) (レス) id: bddda4b7cc (このIDを非表示/違反報告)
結花(プロフ) - かみつれさん» コメントありがとうございます！！ 面白いだなんて凄く嬉しいです！更新頑張りたいと思います！ (2016年5月3日 19時) (レス) id: e4f52b721c (このIDを非表示/違反報告)
かみつれ - 更新楽しみにしています！ (2016年5月3日 0時) (レス) id: 51c4bbe9fb (このIDを非表示/違反報告)
かみつれ - とても、面白いです！ (2016年5月3日 0時) (レス) id: 51c4bbe9fb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：結花 | 作成日時：2016年4月22日 0時
