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夢を見ているようだった。
背景は朧気でぼやけていて、唯一わかったのは星ひとつない空に月があって、少し肌寒い。
夢なのに、妙に五感がリアルに感じられた。確かに夏の香りがするのだ。
「菅原くん、」
不意に声を掛けられる。
鳥の囀る鳴き声のようなか細い声で、俺の名前を呼んでいた。
「誰……?」
「誰でしょう?」
意味深にふふふと抑揚もなく笑った少女は、月に照らされて、不気味だともいえるし、なぜかきれいという言葉が似合う。
でも、この少女がきれいだとしてもいつも俺の心に浮かぶのはAだけしかいないし、他の女子など、あまり興味が沸かない。
「あの、ひとつお願いがあるんです」
唐突に、そう言われて頭は混乱する。
本当に夢なのか、よくわからないけど途端にねっとりとした蒸し暑い空気が辺りを占拠した。
「後ろを向いてもらえませんか?そのまま五秒。動かないでください」
何も言葉を返さなかった俺を気にすることもなく、少女は淡々と言葉を紡いでいく。
俺はどうも彼女を信じることが出来なくて、訝しげな表情をしていたのだろうか。
彼女が、五秒で済みます。お願いします。と頭を下げたのだ。
いくら何でも、ここまでされると従うしかなくて、俺は何も言わずに彼女と反対の方向を向いた。
ありがとうございます。と丁寧な敬語を聞いていると、不意に彼女が五秒数え始めた。
「いち」
「に」
「さん」
「し」
「ご」
正確に、寸分の狂いもなく五秒を読み上げていったのだろう。一秒一秒の間が凄く重く感じて、時計の秒針の音が聞こえたような気がした。
俺は、終わった。と思い後ろを振り返ると、そこには誰も居なかった。
また、これは。
夢の中で夢を見ていたのかと思って、溜息を吐くと強烈な眠気が襲ってきた。
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作者名:結花 | 作成日時:2016年3月26日 22時