僕の天使 -七色の空-

言い出せない一言 ページ18

目覚めたらドンヘの姿はどこにもなくて、代わりに小さなメモがテーブルに置いてあった。


DH「ちゃんと食事して、少し外に出るんだよ。仕事が終わったらすぐ帰るから。」


残されているメッセージは毎日似たような事だった。

微笑んで手紙を手にすると、ワンピースのポケットにそっと入れる。


ドンヘはサキにAの事を結局伝える機会のないままだった。


ｻｷ「あら…今日も帰るの…？」

DH「うん…。」


家に来る時はいつも泊まって行ったのに、食事をしてユイを寝かしつけるとドンヘは玄関で靴を履いた。


ｻｷ「最近…泊まらないのね。」


何度も言いだそうと思うんだけど…

どう説明すればいいか…

言葉を探して探して…

結局見つからないままだった…


DH「最近ちょっと仕事が忙しくて…。」


取り繕う言い訳にも限界を感じる。


ｻｷ「そう…。大変ね。」

サキはそれ以上詮索しなかった。

何か言いたそうに、何か聞きたそうにしながら、いつも玄関先で微笑んだ。


DH「ごめん。またゆっくり来るから。」

ｻｷ「うん…。」


抱き寄せる身体。

ドンヘはサキに小さなキスを落とす。


DH「それじゃ。おやすみ。」

ｻｷ「おやすみなさい…。」


後ろ髪を引かれるような気持ちで後にするサキの家。

歩幅が少しずつ早くなると、いつの間にか走り出していた。


リビングに戻って来るサキ。

ドンヘがユイに読んであげた後、テーブルに置きっぱなしにしていた天使様の絵本。


表紙をそっと撫でる。

いつもユイが大事そうに抱えていたお陰で、少しだけくすんだ色の表紙には、

お互いを求めるように腕を伸ばした王子様と天使様のイラスト。


ドンヘ…

他に想う人がいるの…？

最近のあたなは…

どこか上の空…


伏せる目。

カチャッと音がすると、目をこすりながらユイが立っていた。

ｻｷ「ユイ、どうしたの…？」

駆け寄るサキ。

ﾕｲ「おみずのみたい…。」

そう言われてコップに少しの水を入れて渡すと、ユイは一口飲んだ。

ｻｷ「さ、もう一度寝ましょうね。」

ﾕｲ「ドンヘは…？」

ｻｷ「明日もお仕事だから帰ったわ。」

ﾕｲ「ドンヘ…あさいないね…。」

ｻｷ「そうね…。」


小さな背中を押す。

ベッドにもぐりこむユイはすぐに寝息を立て始める。

胸をトントンと叩くサキ。


もし…

ドンヘに…

他に想う人が出来たら…

私は…

素直に身を引こう…


そう思うのに、そうであって欲しく無いと心が痛んでいた。

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