曖昧な関係だと思っていたのは私だけでした【五条悟】【七海建人】

第9話 ページ9

第9話


悟への気持ちに蓋をして

代わりにぽっかり空いた穴を埋めたのは

七海さんの存在だった



七海さんは真面目で、誠実で、真摯な人だ

LINEだって、どんなに忙しい時でも
朝起きた時、お昼を食べる時、寝る前、
そういった時間に必ず返してくれたし、

週に1度くらいのペースで食事に誘ってくれた

そのお誘いが
今日まで週末を避けてきたのも
七海さんの気遣いだと思う


七海さんとの距離が少しずつ縮まっても
悟との関係は特に変わっていない

…表面上は。


悟が気ままに私の家を訪れて
その度に悟が思うままに私を抱く、
そんな変わらぬ関係だけど

あの指輪を見つけて以来、
身体を重ねる度に


私の中の悟が

悟に恋焦がれた無知な私が

1人ずつ死んでいくような、

そんな例え用のない虚しさを感じるようになった



七海「お待たせしました」



A「いえ！ありがとうございます」



七海「では、行きましょう」



初めて週末に約束をした今日
七海さんの提案でドライブをすることになった

約束の時間にマンションまで迎えに来て貰い
助手席に乗り込む



A「あ…この曲！」



七海「ええ。Aさんが好きだとおっしゃっていたのでダウンロードしてみました。

さすが、素敵な曲ですね。
すっかりファンになってしまいました」



車内にはたしかに私が好きだと話した歌が流れていて。

加えて七海さんのその言葉に
私は素直に嬉しくなって頬が緩んでしまう



A「七海さんにそう言って頂けて嬉しいです」



七海「大袈裟ですよ」



そんな他愛ない話をして
着いた先は江ノ島の海

駐車場に車を停めて
二人で砂浜を歩く



A「わぁ…綺麗ですね…」


七海「そうですね…」


学生時代
サークルの夏旅行で
みんなで海に来たことがある

はしゃいだ悟に海水をかけられて
やり返そうと追いかけたけど

砂浜に足をとられて転んでしまいそうになって
悟が抱きかかえて助けてくれたんだったっけ

懐かしいな

悟と2人で海に来たことは…なかったな


冬の海は人が少なくて
冷えた海風が

人恋しさを増長させる


そんな時に結局悟を思い出してしまうのが
どうにも悲しくて

隣にいる七海さんを
いつも以上に頼りたくなってしまう


…でもそんなの、間違ってる


やっぱり私は、
真っ当な恋愛なんてできないのかな

悟と出逢ってしまったのが
私の終わりだったのかな

気持ちに蓋をしても
その箱を捨てられない限り

無理なんだろうか

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