曖昧な関係だと思っていたのは私だけでした【五条悟】【七海建人】

第21話ー五条side 現在ー ページ21

第21話
〜五条side〜


五条「じゃあ…そうだな…


…元気でな」



そう言い残してAの部屋を出た

バタン、と無機質な音を立てて閉まる扉



五条「…」



Aは出て行く僕を引き止めることも

追いかけてくることもしなかった



…別に、そんな展開を期待していたわけじゃない

だってAには
僕を追いかける理由がない

涙を拭いて駆けつけるべき場所があるんだ



ただ、その事実を突きつけられて

まあそうだよな、と
腑に落ちてしまう自分がなんとも虚しかった



Aのマンションを出た僕は
駅を素通りし

とぼとぼと歩いて帰ることにした


蛍光灯の下に行くのが嫌だった

他人の声が響く場所に行きたくなかった


今の自分にはこの夜の静けさと暗闇が
むしろ心強く感じられた

だけど

味方に思えた夜の空は
そんな僕の気持ちを裏切って
雨を降らせた


ぽつり、ぽつりと足元に雨粒が落ちる度

ひとつ、ふたつとAとの思い出がこぼれていく



始まりは僕の一目惚れだった

初めてした本気の恋に
僕は太刀打ち出来ず

何年間もずっと
その気持ちを行動に移せなかったんだ


在学中は何一つ行動に移せず
片思いを拗らせて


社会人になったって
飲みに誘うのが、僕の精一杯

なんて情けない話だ


結局、その一線を超えたのも酒の勢いだ


酔ってふらふらしてるAに
告白をして、キスをして、そのまま。


あの告白をAが覚えていないかも、なんて
考えなかったわけじゃないのに

確かめるのが怖かった


覚えて貰ってもいない、なんて

そんな悲しい展開を受け入れて
…覆す自信がなかった


社会人6年目

会社でもそれなりの位置になり、

日に日に忙しくなる仕事を言い訳に


明日言おう、今度聞こう、次はデートに誘おう

その繰り返しだったんだ



…そんな僕じゃ、駄目に決まってるよなぁ


「素直になれなかった」


突き詰めればそんな簡単な理由だけど
それが最も駄目なんだよ


小さな歪だったからこそ
簡単に積み重なって

こうして僕達を引き離した



五条「あ、もしもし、傑？
……そ。振られた。

おう…ありがとな。じゃあ後で」



らしくない涙が溢れてしまう前に
すがるように傑に掛けた電話

いつもならからかってくるだろうアイツが
すぐに行くからと言ってくる辺り

相当悲壮な声で話してたんだろう


こんな情けない僕とのさよならを選んだAは

…きっと、正しい

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