メガネ ページ2
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『ちょっと待っててね』
「はーい」
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平日の夜。
最近のこの時間はもっぱら、勝利くんの家に行くことになっているから。
いつも通り。
約束より少し過ぎた時間に家に訪れるけど。
『……ごめんね』
家に招き入れてくれた彼は、お仕事のアンケートの真っ最中だったようで。
『もう少しで終わるから』
「全然大丈夫!急に来てごめんね」
ジュースを置いて、遠くに座る彼。
パソコンに向かってうーん、なんて唸る背中を見つめる。
いつもはかけてない眼鏡。
緩めの部屋着に、少し散らかった資料。
自分の空間を大切にする彼に、テリトリーに入れてもらえた気がして、嬉しくて。
大人しく作業が終わるのを待とうと床に腰を下ろす。けど。
『やっぱちょっと休憩』
雑誌を捲ろうとした矢先。
後ろから回り込んだ彼に、座ったまま抱きつかれて。
腰に回された腕。
思わず落としそうになった雑誌を捕まえて彼を振り返る。
「間に合うの?」
『……大丈夫だもん』
ぎゅっと、勝利くんに抱きしめられたまま。
心配して訊ねれば、
拗ねたように頬を膨らませるから。
「ていうか眼鏡邪魔じゃない?」
『ん、取って』
近すぎる距離に気づいて、視線を逸らすように眼鏡に手をかけるけど。
「どれくらいみえてる?」
『んー、ぼやぼや…』
「私見える?」
『ん……』
くるり、向かい合わせにされたと思ったら、
突然キスを落とされて。
あまりに突然。
驚いて固まったまま、
彼の瞳を見つめ返す。と。
『……むしろ、Aしか見えない』
なんて。
悪戯が成功した子供みたいに
微笑んでみせるから。
「何言ってるの、」
『本当だよ?世界に2人っきりみたい』
「……バカ」
いいながら、彼の首に腕を回して引き寄せる。
レンズを通さない二人だけの世界。
近づかないとぼやけて
消えちゃう気がするから。
いつもより距離が近いのも、そのせい…
……で、いいでしょ?勝利くん。
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作者名:柚綾.。 | 作成日時:2016年11月11日 0時