S.tiger【病系短編集】11

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side元太


倉「…また、眠れなかった？」


俺が頷くと、そっかそっか、と優しい声が俺を包んだ。温かくて大きな手が、背中をさすってくれる。




この手に、この声に、俺はずっと甘えっぱなしだ。



俺は、自分が思うより弱くでどうしようもないやつだった。すぐに戻ってやる、なんてみんなに宣言したくせに、その言葉に自分が置いてけぼりにされるなんて、想像もしていなかった。




体の方は、まだマシだ。ゆっくりでもよくなってるのが自分でもわかるし、痛けりゃじっとしてればいい。歩くときは杖だってある。



でも、心の方が、ダメだ。まず、外に出るのがきつくなった。走っていく車を見ると胸がドキドキして、頭がクラクラして、気持ち悪くなる時もある。


逆に、上手くポジティブスイッチが入ればめちゃくちゃ元気な日もある。今日は行けそうだな、と思ったら、みんなに会いに行くことだってできる。杖をついて、トラジャのみんなのところに帰るんだ。明るくて楽しい、俺の大好きな居場所に。



でも、心の杖は手に持つ杖とは違う。家の中でも外でも、寝ていても起きていても、急になくなってしまう時があって心が倒れそうになる。



そんな時にいつも助けてくれるのが、今俺の背中をなでてくれているこの手だった。誰よりも近くにいて、誰よりも早くボロボロの俺の心に気づいてくれた、たった1人の相棒。


お風呂で過呼吸を起こしたり、夜中に飛び起きたり。見境なく事故の記憶に襲われる俺に、嫌な顔一つしないで手を伸ばしてくれる人。






倉「今日も、一緒に寝よっか。」

元「…いいの？」

倉「いいに決まってんじゃん。シャワー浴びてくるから、ちょっとだけ待ってて。」



今日も、海斗の顔に浮かんでいるのは優しい笑顔。背中をなでてくれていた温もりが、ポンと頭の上に乗っかって離れていった。

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