三月、体育館裏にて ページ22
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長いようで短い。三時間ちょっとの卒業式はあっという間に終わってしまい、ほんの少しもの寂しさが心に残る。
三年間、毎日のように通ったこの場所も、今日ここを出てしまえば もう戻ることはなくて。
昨日練に寂しないって言うたけど、嘘言うてもうたかもしらん。あとで謝っとかないかんな。
卒業を惜しむ声がそこら中から聞こえてくる中、ぼんやり空を見上げて立っている女子生徒。
俺と同じ花飾りを胸に付け、まだひんやりとした風に吹かれて髪をなびかせる。
いつも通り名前を呼べば、少し目を見開いて 緩く笑む彼女。
...あかん、口、動かへん。
俺、緊張してんのやろか。
「...ちょっと、ええか」
やっと絞り出した声に彼女は頷いた。俺の緊張が伝わってしまったのか、身を固くして唇を引き結ぶ。
かちこちと固まる彼女を体育館裏に連れ出した。去年の五月、彼女が俺に告白してくれた、あの場所に。
「まずは 卒業おめでとう」
『えっ、…ああ、ありがとう?』
本題の前に緊張を溶かそうとそう言うと 案の定内田は驚いた様子だった。おめでとうを返してくれる彼女に表情を緩めてみせるも、心臓の速さは増す一方やった。
苦しい。相手に好きやと言うことがこんなに緊張するなんて知らんかった。
それを安易に断りよって、みんなに口を揃えて狡い言われるんもわかる気ぃするわ。
「俺が将来こうなったらええな 思うことがある、言うたの覚えとるか」
『うん』
「今日が卒業やから、教えたろ思て」
内田が眉を少し上げた。そういえばそういうこともあったなと思い出すように、またこくりと頷く。
「その前に一つ、聞いてほしいことがあって」
心臓、うるさい。痛いほどに跳ねるそこを落ち着かせるように一つ息をついて、目を伏せる。
目を開ければ、真っ直ぐ俺を見上げる内田と目が合って。
「...内田Aさん」
『は、はいっ』
「___好きです。俺と、付き合うてください」
...返事なんてそんなもん、訊かんでも 内田の顔見たらわかってまう。
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はやみこ - 北さん…かっこいい!とても素敵なお話でした。 (2020年5月24日 12時) (レス) id: d7eec8a8e8 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ(プロフ) - えええ、大耳くん???それは意味深だよぉぉ。君も素敵な男やなぁ。これぞ甘酸っぱいお話ですね。誰かの恋の裏には言い出せもしない失恋が隠れてるのかな何て勝手に想像してしまいました。 (2020年4月30日 23時) (レス) id: 8c1d6118a6 (このIDを非表示/違反報告)
氷水(プロフ) - うわあああ…たまたま見つけて読んでしまいましたが、とても素敵でした…素敵な北くんのお話をありがとう… (2020年3月26日 1時) (レス) id: b2d8d7cb3b (このIDを非表示/違反報告)
an20080321(プロフ) - もうさいっっっこうです!!素晴らしい作品ありがとうございました、、!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: ee660bdd63 (このIDを非表示/違反報告)
月埜(プロフ) - ありすさん» ありすさんはじめまして、ありがとうございます...!!この作品で少しでも多くの方に北くんをもっと好きになって下さったら嬉しい限りです。コメントありがとうございました!! (2020年2月25日 22時) (レス) id: d1ca7a883a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月埜 | 作成日時:2020年2月14日 22時