あれこれ詰め込んでみるのも悪くない。 (ページ4)

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「その、電話はしたんだけど。」

ああ、違う違う。こんな言い訳を言ったところで変わらない。言ったそばからまた後悔した。でも口から溢れ出てしまったものはどうしようもない。時を戻すことは出来ないし相手の耳に入る前に切り捨てることも出来ない。

『忘れたの。駅に着いてそのことに気づいて。でも時間通り来ると思ったから取りに戻らなかった。遅いから何かあったのかもって思って何回か取りに戻ろうと思ったんだけど、行き違いになっても嫌だから。』

取りに行かなかった、という事らしい。前にも似たようなことがあった。その時も彼女は取りに戻らなかった。現代人にしては稀であるが彼女はスマホがなくても大丈夫な人間なのだ。

「お昼は？」

恐る恐る視線を上げてAを見ればまだ頬杖をついてそっぽを向いている。初めて見る綺麗めなワンピースに、去年の誕生日に吉沢がプレゼントしたネックレス。いつもと少し雰囲気が違って見えるのは髪型のせいだろうか。

「夜はいつものとこに行く。」と伝えてあった。記念日によく利用するお店だ。カジュアルな格好ではなかなかに敷居の高いレストランだからしっかりと準備をしてくれたのだろう。

対して自分は…。と己を改めて見て気づく。ネクタイをまだ締めていない。タクシーで頭を抱えている場合ではなかった。遅れてきた上に身支度すら中途半端。

『食べてない。』

「じゃあ、何か食べる？」

軽く何か腹の足しになるようなものを。と考えた吉沢を『要らない』とAはばっさり切り捨てる。

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