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伊野尾から、一人で朝を待つ大ちゃんの様子を聞いた時、やらかしたと思った。
一人で留守番をするより、仕事に着いてくる方がつらいだろうと思っていたから、わざと黙っていた。
でも逆にそれで大ちゃんを不安にさせていたなんて。
それなら、一人にさせなければいいと思った。
また大ちゃんには黙ったまま、ハウスに一人にさせない方法を考えた。
『黙ったまま』が大ちゃんを不安にさせていることに、気づきもしないで。
「おれのために、誰かハウスに居てくれるようになったんでしょ…?
…でも、もう平気。
ちゃんと一人で待っていられるから、気にしなくていいよ」
俺たちの下手くそな気づかいに、大ちゃんは気づいていた。
自分を恨んだ。
俺のとった方法が間違っていたことに、やっと気づいた。
だから、もう隠さないことにした。
隠すことが不安にさせるなら、ちゃんと伝えてあげればいいんだ。
「俺たちの仕事のこと、大ちゃんにも伝えさせて」
大ちゃんは、小さく、…うん、と返事をした。
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「俺たちはね、『月影』と同じ、夜の世界で働いてる」
「……」
「ただ、働き方は全然ちがう」
「働き方…?」
包み隠さず伝えた。
大ちゃんの不安を、すこしでも軽くできるように。
「うちには、ホステスもホストもいるんだ」
「……?」
「男性のお客様も女性のお客様も相手にする、ホステスとホストがいるんだ。
俺たちは全員まとめてキャストって呼んでる」
「女の人も男の人もいるってこと…?」
「そう。
男性の相手がホステスとは限らないし、女性の相手がホストとは限らない。
お客様のニーズに合わせて、最高のおもてなしをする」
「……!」
「この中だと、涼介と裕翔と伊野尾がホストをやってる」
「まぁ俺は弁護士の仕事もあるから、2人ほど頻繁には店に出てないけどね」
「その割に伊野尾くんは超人気だよね」
「まぁねー」
少し戸惑っているように見えるけど、説明を続ける。
「光と雄也と侑李は黒服として働いてる」
「黒服……?」
「うちはボーイは雇ってないんだ」
『月影』での大ちゃんの立場はボーイだった。
一般的に、黒服よりボーイの方が立場が下。
でも、俺たちの店では、立場の上下関係はいらない。
「俺たちの店には、黒服とボーイの上下関係も、キャストと黒服の上下関係も、なにも存在しない」
「……!」
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作者名:まり | 作成日時:2022年10月30日 15時