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あの日。
たまたまお客さんが少なかった。
俺は別の仕事で忙しい日が続いていたから、先に上がんなよという薮の言葉に甘えて、随分と早い時間にハウスに帰ってきていた。
大ちゃん、寝てるかな。
でも、俺たちが休みでハウスにいる日は、この時間はまだ起きてるよな。
『月影』のころの生活習慣がとれないって言ってたし。
そう思いながら大ちゃんを探す。
呼んでも呼んでも返事がない。
一人でどこかに行った？
いやでも、大ちゃんはこの辺りは土地勘がなくて外には出たくないって言ってた。
なのにわざわざこんな暗い時間に、一人で出歩くとも思えない。
少し不安になりながら、大ちゃんの部屋の扉を開ける。
真っ暗で寝ているのかと思ったけど、大ちゃんのベッドの上には誰もいなくて。
それどころか、掛け布団もなくなってがらんとしていた。
「…大ちゃん？」
すると、カサっという小さな音がした。
虫でもいるのかと思ったけど、どうやらそうではないらしいとすぐに気づく。
音の先はクローゼットだった。
そしてそのクローゼットの隙間からは、普段ならベッドの上にあるはずの掛け布団が、少しだけはみ出ているのが見えた。
大ちゃんが、そこにいる。
姿は全く見えないのに、そう確信めいたものがあった。
びっくりさせないように、そっとクローゼットを開けた。
開けた先には、掛け布団でくるまっている大ちゃんがいた。
なにも見たくないとでも言うかのように、ギュッと目を瞑って。
布団に包まれているはずなのに、小刻みに震えていて。
「……大ちゃん」
静かにそう呼ぶと、大ちゃんは恐る恐る目を開けた。
「っ……」
俺を見て、悲しそうな、苦しそうな、そんな顔をする。
自分の胸が、きゅっと音を立てたのが分かった。
なんで、そんな顔するの。
「…ごめん、なさい……」
小さく謝る声が聞こえた。
ちがう、そんな言葉が欲しいわけじゃない。
そう口に出る前に、俺の身体は、大ちゃんを布団ごと抱きしめていた。
「っ……！」
大ちゃんの身体がびっくりして強ばっているのが分かる。
でも、俺は離してあげられなかった。
そのうち、大ちゃんもゆっくりと身体から力を抜いた。
言葉も何もいらなかった。
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作者名：まり | 作成日時：2022年10月30日 15時
