検索窓
今日:2 hit、昨日:39 hit、合計:33,487 hit

ページ21

ar





みんなに見られながら、知念の話を聞いて。

聞き終えたと思うと、山田は大きな声を出して部屋を出ていって。

そしたらみんなも、困ったように笑って、お大事にって言いながら部屋を出ていった。




また静かになった部屋。

すると、知念は静かに口を開いた。




「…自分でも気づいてなかったんでしょ?」




それは多分、さっき言っていたこと。

熱を出したのは、慣れない環境に疲れたから。

おれ自身はそれに気づいてなかったんじゃない?

そういう質問だと分かった。





「…よく、分かんない…」





疲れていなかったといえば嘘になる。


一生逃げられないと思っていた暗闇から助けてもらって。

最初は返事すらままならなかったおれに、当たり前みたいに優しくしてくれて。

せめてなにか返したい、そう思ってできることを探した。


それでもまだまだ足りない気がして、色々考えた。





「大貴の気持ちは十分届いてるよ」





そんな言葉が聞こえた。

知念は、おれの心を見透かしたかのように言葉を続ける。





「…別に、なにかをしてもらいたくて大貴を助けた訳じゃないよ。

まぁ、ただ与えられるだけじゃ居づらい気持ちもわかるけど」




知念も同じような経験あるのかな。

そうも思える言葉たち。





「ゆっくりでいいよ。まだまだこの先長いんだし」





……そっか…。

まだまだ、これからがあるのか……。



当たり前のことなのに、胸にじんわり広がった。



これから、なんて考えたこと無かった。

考えれば考えるほど、みじめになるだけだったから。

でもここでなら、これからのことも考えられそうだなぁ。



そう考えると嬉しくなってきて、顔が少しにやける。





「なににやにやしてんの?」




知念にそう言われて、恥ずかしくなって、布団を頭から被った。





「あ、こら。そんなことしたら苦しいでしょ」





そう言ってゆっくり布団を剥がされた先には、優しい表情でこっちを見つめる知念の顔。

あぁ、あったかい。

そう思っているのが伝わったのか、しょうがないなぁなんて言って柔らかく笑う。





「ここにいるから、ゆっくり休みなよ」




ちょっとぶっきらぼうだけど、優しさいっぱいの言葉と布団の上からおれを撫でる手。

昨日の夜感じていた不安は、どこかに行ってしまった。

代わりにやってきた安心に包まれて、おれは目を閉じた。

作者→←・



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (46 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
175人がお気に入り
設定タグ:有岡大貴
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:まり | 作成日時:2022年10月30日 15時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。