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父さんが死んで、山田のお母さんが面倒を見てくれて。
よく分からないまま事が進んでいったけど、さすがにこのままじゃいけないと思って、家に戻った。
……それが、間違いだったのかもしれない。
「…家に戻って色々片付けて、なんとか過ごしてたとき、うちに、オーナーが尋ねてきた」
「……！！」
ここからは、なんとなく想像がつくだろう。
「…おれが知りもしない借金の話をされて、働けって言われた。
……お金のことも、時間のこともあって、高校もやめなきゃいけなくなって…。
…オーナーに言われるがまま、あのアパートに住んで、仕事をしてたの」
…気づいたら、6年が経っていた。
最初はよく分からず、ただ苦しいだけだった『月影』との往復生活も、1年も経てば何も感じなくなった。
「…死 のうとも、思わなかった」
「だい、ちゃん……」
逃げるためには、死 ねばよかったんだと思う。
心残りなんてなかった。
今ならそう思えるのに、あのときは色んなものが麻痺していて。
死 ぬという選択肢すら、浮かばなかった。
ただ、逃げられないあの場所で、一生を過ごすんだと思ってた。
「……でも、あの日…」
「…あの日？」
「…高木さんが、初めて店に来てくれた日」
「……！」
「……高木さんの顔と声が、頭から離れなくなったんです…」
高木さんを見て、そう伝えた。
あんなこと、今までずっとなかったんだ。
暗闇しかなかったから。
でもあの日から、事あるごとに高木さんの顔が頭に浮かんだ。
もう会えないって分かってたのに、まるで希望にすがるかのように思い出して。
「……ずっと、お礼を言いたかったんです…。
…ありがとう、ございました……」
絶対にありえないと思ってたのに、助けてもらえた。
お礼の言葉以外、なにも出てこなかった。
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作者名：まり | 作成日時：2022年9月12日 18時
