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俺の知らないところで、山田は1人で苦しんでた。
俺は、ちっとも知らなかった。
「俺が今、こうして生きているのは、母さんの言葉とハウスのみんなのおかげ」
苦しい思いをしてきたはずなのに、そう話す山田の顔はどこかスッキリしていた。
そして、こっちを向くと
「それから、大ちゃんのおかげ」
そう言って笑った。
どうして……？
おれ、なにも……
「どこかで大ちゃんが頑張ってるって思うだけで、俺も頑張れたんだよ」
勝手でごめんね、と言って山田はまた一つ微笑んだ。
そして、俺の方に体を向けて、手を握って、今度は語りかけるように言葉を紡いだ。
「大ちゃん、俺はね、今度は大ちゃんを救いたいんだ」
山田は、真剣な目でおれを見つめた。
「ハウスのみんなは信頼できるよ。
だって、俺も助けてもらったんだもん」
……ほんとは、分かってるんだ。
あの人達が、おれを救おうとしてくれてるって。
でも……
「…人を信じるのってさ、怖いよね」
山田は、俺の心の中を読んだかのように続けた。
「分かるよ、俺も怖かったから」
そうだ。
山田もひどい思いをしてきた。
怖くなかったわけがない。
「でもね、みんななら絶対に大丈夫」
その言葉と共に、山田はおれの手を握り込む力を強くした。
「信じて」
……そっか、山田は…。
おれが怖がってたことに気づいたんだね。
だから、俺を連れ出した。
…ほんと、
「山田って、やさしいね」
そう言うと、急なおれの言葉に驚いた山田は、目を見開いて声を上げた。
「っ…！なに…！？急に……！！！」
さっきまで真剣に話していたのに、急に焦っている山田が面白くて、思わず笑みがこぼれた。
山田はそんなおれをみて一層驚いた様子だった。
そうだよね、おれも久しぶりに笑ったもん。
自分でも、まだ笑えたってびっくりしてるよ。
…でも多分、これは、俺の気持ちが緩んだ証拠。
このまま身を任せてもいいんじゃないかなって、思えた。
だから、
「…ありがと、山田」
そう言って、今できる精一杯で、笑った。
……大丈夫。
きっと、大丈夫だよね。
ここならお母さんも見てくれてるはずだもん。
……おれ、やっと前に進めそうだよ。
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作者名：まり | 作成日時：2022年9月12日 18時
