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今日もいつも通りだった。
みんなより早く来て、理不尽に怒られて、謝って。
でも、一つだけ、いつも通りじゃないことが起きた。
「ねぇ、あの人超かっこよくない？」
「ね、ほんとに！いい感じに若そうだし！」
「本気で狙いにいっちゃおっかな」
「あ、ちょっとあんたずるい！」
コソコソと喋る声。
話題の中心にいるのは、今日初めて来店された、1人の男性だった。
その人は、たしかに綺麗な人だった。
少し焼けた肌、長めで明るい色をした髪、切れ長の目。
身長が高くて、スラッとしてて、スタイルも満点。
少しこわい印象がもたれそうだけど、受付でふわっと笑った顔が、優しさとどこか幼さを含んでいた。
男の俺から見ても、文句なしのイケメンだった。
『月影』は、夜の世界の中では中の上くらいのお店。
だから客層としては、ボーナスが入った中小企業の人とか、少し稼ぎがいいくらいの人が多くて、そこまで目立つようなお客様が来られる事はほとんどなかった。
そんな理由もあって、みんなそのお客様に釘付け。
ホステス達は、我先にと小声で牽制し合っている。
「じゃあ、この子で」
指名されたのはうちのナンバー2。
ナンバー1は太客をお相手中だから、まぁ妥当だろう。
「今日はよろしくお願いします〜」
「こちらこそ」
ナンバー2はご機嫌。
周りのホステス達は、隙あらば近づこうと、ここぞとばかりに観察をしていた。
「ちょっと」
ナンバー2からのお酒の注文。
ああいうときはあまり近づきたくないけど、今空いているボーイはおれしかいないみたいだし、仕方ない。
「…はい」
「ーーーー1つ」
「…はい」
なるべく小声で、目を伏せて、注文を受ける。
…立ち上がり、カウンターに戻ろうとしたときだった。
「ねぇ君」
後ろから話しかけられた気がした。
でも基本、お客様とボーイは会話をしない。
だからおれのわけが無い。
「え〜、なんですか？」
ほら。
「いや、君じゃなくて」
「その、今注文受けてくれた黒服の」
……おれ？
「ちょっとお客様、あの子はボーイですよ〜。黒服なんて立派なものじゃないですって〜」
…そうだ、俺はボーイ。
やっぱり気のせいだ。
「ねぇ待って」
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作者名：まり | 作成日時：2022年9月12日 18時
