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「なにが怖い？」
そう尋ねるのは、初めて聞いたあの日から、頭を離れなかった声だった。
「…たかき、さま………」
「なにが怖いか、教えて？」
なにが怖いか。
そんなの、誰にも言ったことなかった。
言ったって味方はいない。
解決する訳ないって思ってたから。
でも、高木様のその声と微笑みに、堪えきれなかった涙と一緒になって溢れ出してしまった。
「逃げられ、ないんです………！」
とても小さく溢れた声だったのに、高木様は一言も聞き逃さなかった。
「逃げられない？ どうして？」
「っ………、借金が………、あるんです……」
「だいきくんの？」
「父が……っ、知らない間にオーナーに借りていて……っ…、それを………」
「だいきくんが返さないといけない？」
「っ………、はい………！」
涙なんて枯れたと思っていたのに、止まらなくて。
みっともない。
苦しい。
「大貴………！！！！」
「ひっ………！！！」
おれが人生で1番恐れている声に呼ばれる。
思わず声が引きつったと同時に、急に足の力が抜けて、その場に座り込んだ。
恐怖で、体が震え出した。
そのとき、優しい香りとあたたかさに包まれた。
「……ぇ…………」
恐怖との間に一瞬で壁ができたみたいだった。
そこは、高木様の腕の中だった。
誰かと触れ合うなんて、吐き気がするほど嫌だったのに。
なぜかその腕の中には、ずっと居たいと思えるあたたかさがあって。
「大丈夫、このまま」
高木様のその声に、おれは拒否することもできず、包まれていた。
「薮くん」
高木様はそう一声掛けると、俺を少しだけ強く抱きしめた。
「借金……ね」
あたたかい壁の外から聞こえたのは、最初に放たれた凛とした声と同じもの。
高木様が薮くんと呼んだ人だとすぐに分かった。
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作者名：まり | 作成日時：2022年9月12日 18時
