夜にサヨナラ【冨岡義勇】 (ページ37)

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金木犀から雪化粧① ページ37

はあ、と息を吐けば白く濁る。

「北の雪山かあ」

東京から随分遠くへ行ってしまう人だなと届いた手紙を見て切に思う。
義勇さんは口数が少ない人であれども、手紙では実に雄弁だ。
あの人、文通とかしたら案外いろんな誤解とか解けるのでは？と思うのだけどまず無理だろう。
手紙に書かれているのは「鬼になった妹を連れた少年を見た。妹は鬼であるが殺していない。」という内容。
一体どんな心境だったのかはさっぱりわからないが、妹は人食い鬼ではなかったので見逃したのだろうか。
それとも、この少年が義勇さんの心を動かすような子だったのだろうか。
どちらにせよ、仮に彼の心が動くような相手に出会えたのは良いことだ。

「"マタギの犬と遊んだ"……マタギ？」
「北ノ方デハ猟師ヲソウ呼ブ」
「ああ、なるほど。つまり猟犬と遊ぶ義勇さん……ふふっ」

想像つかないので思わず笑ってしまった。
義勇さんの鴉を指先で少し撫でてから返事を書く。
私もその少年に会ってみたい、鬼となった妹は今後どうなるんでしょうね。
犬ではありませんが、我が家の近くにも野良猫が出るようになったんですよ。
こっそり餌付けしてるので家に来たら2人で見ましょうね。犬を飼うのも有りかもしれませんよ。
この家、私一人で過ごすには、……少し広く寒いので。

「……すっかり、金木犀も枯れてしまいましたねえ。綺麗だったのに」

庭先に自生していた花をふと思い出す。あの香りが好きだったのに。
今じゃ雪化粧を被って黄金色は真っ白だ。
義勇さんへの返書を鴉の脚に括り付けそのまま見送る。
さて、私も夕飯の買い出しに出よう。今日は寒いしうんと温かい物が食べたい。
綿入れ半纏を羽織り手袋をはめて外に出れば空はどんよりと濁っている。
これはまた雪が降るかもしれない。早めに買い物を済ませてゆっくり帯でも縫おう。
お昼は適当に定食屋でさば味噌定食を頂き、夕飯はどうしたものかなあと歩く。
にんじんと里芋、あとはこんにゃくの煮っ転がしにでもしようか。

「あら！ねえねえ、お姉さん！」
「はい？」
「私のこと覚えてるかしら？あなた、冨岡さんの奥様でしょう？」
「……、ああ！はい、ええっと……恋柱様ですね。いつも旦那がお世話になっております」

覚えている。結婚式の場に派手なお嬢さんがいらっしゃったと思った。