夜にサヨナラ【冨岡義勇】 (ページ36)

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夜長の秋雨③ ページ36

そうなると私が産んだ男の子は私の実家へと養子に出すのが一番だろう。

「しっかり考えているんですね、Aさん」
「ええ、まあ。義勇さんは言葉にしてくれないのでどう思ってるか分からないですが……、いつかは来ることだと思っていたので」
「……失礼ですが、もしかして」
「……来てないんです」

今まできていた生理がまだ来ていない。それを義勇さんは知らない。
私もわざわざ言うことではない、そう判断した。それに遅れているだけかもしれない。まだ分からない。
子供が出来たとは、限らない。

「内緒にしてくださいね、胡蝶さん」
「もちろん。……言わないつもりなんですね」
「はい。女の子ならかがり、かがり縫いは生地のはしをほつれないように縫いとめたり服の補修などに使うので、人と人を繋ぐことが出来る子になって欲しい。男なら義志です。義を持って志を高く持つ子でいて欲しい。私に似ても義勇さんに似ても苦労しそうですよね」

自分の腹部を撫でて夜空を見つめる。
今じゃなくても未来に、このお腹に命が宿るのなら。
私のことは知らなくても良い。父のことも知らなくて良い。ただ、幸せに平和な世界で生きて欲しい。

「……では、私はそろそろ帰ります。なんだか雨が降りそうですからね」
「はい。下まで送りましょうか？」
「いいえ、危ないので門までで結構ですよ」

そう言うので庭から回って門前まで胡蝶さんを見送る。
冷えてきた、これは本格的に雨が降るかもしれない。早めに風呂にして早く布団に入ってしまおう。
そう思って家の方へと体を向けた瞬間。

「A」

耳元でする愛しい声と、背中にある体温。

「……お帰りなさい、義勇さん」

そう声を掛ければ腹部に回された腕がぎゅっと私を抱き寄せる。

「会いたかった」
「私も、会いたかったです」

結婚した当初、一人で生きていけると思っていた。会いたいと思うことも無いと思っていた。
なのに今は一人で過ごす時間が少し寂しくて、会いたいと思ってしまった。
こうして抱き締められてぬくもりを知ってしまえばどうしようもない。
冷えるな、と義勇さんが言ってやっと体が離れるも手が繋がれる。

「今夜、良いだろうか」
「お待ちしています」

玄関へ入ると急激に雨が降ってきた。今夜は雨で冷えるだろう。
けれど私の体は誰よりも熱を持つことを、私は知っていた。