夜にサヨナラ【冨岡義勇】 (ページ32)

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浅き夢見じ千本鳥居② ページ32

そのまま錆兎、と呼ばれた少年の隣に座れば団子の乗った皿を差し出される。

「良ければ」
「ありがとう。……私は遠まわしに物を聞けません。君は、義勇さんと何の関係がありますか」
「詳しくは答えられない。だが、俺は死んでいる」
「死人に口無しと言いますけれど。……まあ、いいです。私、義勇さんの過去にそこまで興味が無いので」

ひょい、と一つ団子の串を取って口に含む。美味しい。
ここが黄泉の国であるなら私は現し世にはもう戻れないだろう。
けれどまあ、なんやかんや言って、義勇さんが迎えに来る。そんな気がする。

「義勇のどこを好いてるんだ」
「え？夕餉の手伝いもしてくれるし、お風呂洗ってくれたりもするし。ああ、荷物も持ってくれます」
「……それは本当に冨岡義勇か？」
「ええ、冨岡義勇ですよ。君の知らない、私の知る冨岡義勇です」

もう一口。後ろから湯呑が置かれて顔をあげれば花柄の着物。
先程の真菰と呼ばれた少女が面を外していた。ふわりと微笑んで後ろに控えてしまう。
一方で隣りにいる錆兎は本気かと言いたげに眉根を寄せていた。その表情はなんだか義勇さんに似ている。

「……義勇は言葉足らずだから。でも良かった、Aさんが義勇の妻となる人で」
「義勇さんにもそう思ってもらえてたら良いのですけどね」
「心配せずとも、アイツはAさんにベタ惚れだよ」

フッと顔を緩めてそういう錆兎は年齢、いや、見た目以上に大人っぽい。
きっと生きていたら、義勇さんと年齢も変わらない子だったんだろうか。
そこまで他人の過去に頓着するわけでは無いものの、義勇さんの言葉足らずは昔からだった事をうっかり知ってしまった。幼い頃からそうだったんですね、義勇さん。

「でも、なんで過去に興味が無いんだ？好いた男の過去だろ？」
「知ったところで得がないじゃないですか。それに、そういうのは本人が話したくなった時に話してくれれば良いんですよ。私も自分の過去について根掘り葉掘り無遠慮に聞かれたくないですしね」
「成る程な。……さて、団子はどうだった？」

錆兎が立ち上がって、右手を差し出してくる。